マツオカ会計事務所

「増減差額」とは何か|社会福祉法人会計で利益ではなく増減差額と言う理由をやさしく解説

企業会計の利益と社会福祉法人会計の増減差額を説明する

はじめに

社会福祉法人会計では、企業会計で使われる「利益」という表現は用いられず、
代わりに 「増減差額」 という用語が使われています。

はじめて社会福祉法人会計に触れた方は、

と疑問を持たれることが多くあります。

この記事では、増減差額の意味を基礎から整理し、
企業会計との違いも踏まえながら分かりやすく解説します。


※著者情報

本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。

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質問の内容

社会福祉法人会計で使われている「増減差額」という用語の意味について教えてください。
「利益」とは何が違うのでしょうか。

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1.「増減差額」とは純資産の増減を示すもの

増減差額とは、貸借対照表の純資産を増加または減少させる差額を意味します。

社会福祉法人会計では、
企業会計の「利益」とほぼ同じ計算式(収益-費用)を用いながら、
その結果を「利益」と呼ばず「増減差額」と表現します。

この点は後ほど詳しく説明します。


2.事業活動計算書における「増減差額」の種類

事業活動計算書には、複数の増減差額が登場します。

代表的な区分は次のとおりです。

No名称内容
サービス活動増減差額事業の主たる活動による収益-費用
サービス活動外増減差額サービス活動以外の収益(受取利息や雑収益等)ーサービス活動以外の費用(支払利息や雑損失等)
経常増減差額①+②
特別増減差額臨時的・例外的な取引の収益-費用
当期活動増減差額経常増減差額+特別増減差額
前期繰越活動増減差額前年度からの繰越(過去からの繰越)た増減差額
当期末繰越活動増減差額⑤+⑥
次期繰越活動増減差額⑦を基本に、基本金の取崩や積立金の積立・取崩を調整した後の金額

この「⑧ 次期繰越活動増減差額」は
貸借対照表の 純資産の部 にそのまま対応します。

つまり、
事業活動計算書で示された結果が直接貸借対照表に反映される仕組みです。


3.企業会計の「利益」との違いは?

計算式は同じです。

▼計算の比較

区分用語計算式
株式会社(企業会計)利益収益-費用
社会福祉法人増減差額収益-費用

では、なぜ社会福祉法人では「利益」と呼ばないのでしょうか?


4.「利益」と呼ばない理由|配当が存在しないから

株式会社は利益を原資として株主へ配当できます。

一方、社会福祉法人は公益性の高い法人であるため、出資者などに配当を行うことが法律上認められていません。

そのため、

という理由で、独自の用語が採用されています。

▼貸借対照表でも違いが生じる

区分計算結果の表示先配当
株式会社利益剰余金可能
社会福祉法人次期繰越活動増減差額不可

社会福祉法人では収益が費用を上回っても、その剰余を外部に分配することはできず、
将来のサービス提供の原資として純資産に積み上げる 形になります。


5.増減差額の本質:純資産の動きを表すための用語

社会福祉法人会計基準では、事業活動計算書について次のように規定しています。

当該会計年度における全ての純資産の増減の内容を明瞭に表示するもの
(社会福祉法人会計基準 第19条)

つまり、
事業活動計算書の目的は「利益を示すこと」ではなく、
純資産がどのような理由で増えたのか・減ったのかを説明すること にあります。

そのため、企業会計と似た計算式であっても、
より公益法人に適した表現として「増減差額」が使われているのです。


6.まとめ|「利益」ではなく「増減差額」と言う理由

最後にポイントを整理します。

No内容
増減差額は「純資産を増減させる差額」を示す用語
計算式は利益と同じく「収益-費用」
社会福祉法人には配当制度がないため「利益」の用語を用いない
事業活動計算書の最終結果は貸借対照表の純資産へ連動
増減差額は、社会福祉法人や公益法人などの財務構造を説明するための中立的な表現

つまり、

社会福祉法人会計では、“配当とは関係のない純資産の増減” を表すために「増減差額」という独自用語が使われている。

ということです。

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増減差額の用語については、社会福祉法人制度の理解につながることから、勉強会のテーマとして開催しました。この勉強会の内容を本に書き起こしています。

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(参考)社会福祉法人会計の増減差額と企業会計の利益のイメージ図

株式会社の利益と社会福祉法人の増減差額の計算の流れをイメージ図で確認してみましょう。

利益:企業会計(株式会社)のイメージ

NO.内  容
損益計算書で計算された「利益」の金額分、貸借対照表の純資産が増加する
貸借対照表の「利益(剰余金)」を原資に、株主へ配当を行う

増減差額:社会福祉法人会計のイメージ

NO.内   容
事業活動計算書で計算された「増減差額」の金額分、貸借対照表の純資産が増加する
なし (配当を行うことは認められていない)

が分かります。

社会福祉法人会計基準(事業活動計算書)

第三節 事業活動計算書

(事業活動計算書の内容)
第十九条 事業活動計算書は、当該会計年度における全ての純資産の増減の内容を明瞭に表示するものでなければならない。

(事業活動計算の方法)
第二十条 事業活動計算は、当該会計年度における純資産の増減に基づいて行うものとする。
2 事業活動計算を行うに当たっては、事業区分、拠点区分又はサービス区分ごとに、複数の区分に共通する収益及び費用を合理的な基準に基づいて当該区分に配分するものとする。

(事業活動計算書の区分)
第二十一条 事業活動計算書は、次に掲げる部に区分するものとする。
一 サービス活動増減の部
二 サービス活動外増減の部
三 特別増減の部
四 繰越活動増減差額の部

社会福祉法人会計基準

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記事の執筆者のご紹介

著者情報 この記事を書いた人

松岡 洋史

Matsuoka Hiroshi

公認会計士・税理士 
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員

マツオカ会計事務所 代表  松岡 弘巳

地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。


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(筆者:松岡洋史 公認会計士・税理士 専門分野:社会福祉法人会計

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