はじめに
社会福祉法人の決算作業を進める中で、
前年度以前の決算内容に誤りが見つかる ことは、決して珍しいことではありません。
このような場合、
- 企業会計の「過年度遡及会計基準」を使う必要があるのか
- 過去の計算書類を作り直すべきなのか
- それとも当年度で処理すればよいのか
と迷われることが多くあります。
この記事では、
社会福祉法人会計における「過年度修正」の基本的な考え方 を、
厚生労働省の見解に基づいて整理します。
※著者情報
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。1.はじめに
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顧問先様からの質問
| 当年度の決算作業中に前年度の決算の金額に誤りが見つかりました。どのようにしたら良いでしょうか。 |
1.企業会計における「過年度遡及会計基準」とは
企業会計には、
「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
(いわゆる過年度遡及会計基準)があります。
この基準では、
- 過去の財務諸表に誤り(誤謬)があった場合
- その誤りを 過去にさかのぼって修正 し
- 修正後の財務諸表を 再表示する
という処理を行うことが原則とされています。
2.この基準は社会福祉法人会計に適用されるのか
ここが最も重要なポイントです。
結論から言うと、
社会福祉法人会計では、
企業会計の過年度遡及会計基準は原則として適用されません。
この点については、
厚生労働省が公式のQ&Aで明確に示しています。
3.厚生労働省Q&Aの考え方(要点整理)
厚生労働省の事務連絡では、次のような考え方が示されています。
- 社会福祉法人会計基準では
過年度遡及会計基準の適用は求めていない - 過去の計算書類に誤りが見つかった場合でも
過去にさかのぼって修正する必要はない - 原則として
誤りが判明した年度(当年度)で処理する
つまり、
過去の決算を作り直すのではなく、
「気づいた年度で修正する」
というのが、社会福祉法人会計の基本的な取扱いです。
問1
社会福祉法人には、 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号令和 2年3月31日企業会計基準委員会)は適用されるのか。(答)
社会福祉法人会計基準では、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が適用されず、 過去の計算書類に遡及して訂正する処理等を求めるものではないが 、すでに適用している法人においては、継続適用を否定することまで求めるものではない。
なお、過去の計算書類において誤謬等が発見された場合には、過去の計算書類の遡及修正は行わず、誤謬等が判明した年度に処理するものとする。
出典:厚生労働省事務連絡「他の法人形態で適用等されている会計処理等についての社会福祉法人会計基準への適用に係るQ&A」より
4.「原則」と「例外」を整理する
原則
これまで過年度遡及会計基準を適用していない法人では、
- 過去の誤りが見つかった場合
- 過去の計算書類は修正せず
- 誤りが判明した年度で会計処理を行う
例外
一方で、
- すでに過年度遡及会計基準を適用してきた法人については
- その継続適用まで否定されているわけではない
とされています。
ただし、この例外は 限定的なケース であり、
多くの社会福祉法人では「原則」の考え方が当てはまります。
5.なぜ遡及修正をしないのか(制度的な理由)
社会福祉法人会計では、
- 予算管理
- 資金収支計算(当年度の資金収支差額の計算)
- 補助金・助成金・委託費の取扱い(単年度処理)
- 行政への説明責任
といった観点が重視されています。
そのため、
- 過去の数字を何度も書き換えるよりも
- 現在の決算書類の中で、誤りを適切に整理する
という考え方が採られています。
これは、
実務の安定性と説明可能性を重視した制度設計 と言えます。
6.実務上の注意点
過年度の誤りが見つかった場合には、
次の点を意識して対応することが重要です。
- 誤りの内容と金額を整理する
- なぜ誤りが生じたのかを内部で共有する
- 当年度のどの区分で修正するかを検討する
- 必要に応じて、理事会や監事へ説明する
単に仕訳を直すだけでなく、
法人としての説明責任を果たせる形で処理すること が大切です。
まとめ|社会福祉法人会計における過年度修正の考え方
最後にポイントを整理します。
- 社会福祉法人会計では、原則として過年度遡及修正は行わない
- 過去の誤りは、誤りが判明した年度で処理する
- 企業会計の考え方をそのまま当てはめないことが重要
- 厚生労働省のQ&Aに沿った対応が基本となる
過年度修正は、
「過去を直す処理」ではなく「今を正しく整える処理」
として理解すると、実務上も整理しやすくなります。
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記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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