はじめに
固定資産の実査とは、帳簿に記載されている 土地・建物・車両・機械・器具備品などの固定資産が、実際に存在し、適切に管理されているかを確認する作業 です。
社会福祉法人や企業主導型保育園では、固定資産の取得や更新が多く、
「固定資産管理台帳と現物の不一致」 や 「除却漏れ」 が指導監査や専門的財務監査で指摘されることも珍しくありません。
実査は、次の3点を確実にするための重要な手続きです。
- ✔ 帳簿と現物の一致(正確性)
- ✔ 紛失・盗難・管理不備の防止(保全性)
- ✔ 遊休資産・故障などの把握(経営判断)
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省、児童育成協会からの通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
👉固定資産実査の具体的な手順は「社会福祉法人・企業主導型保育園のための「固定資産の実査」|会計の信頼性と資産の実在性を支える必須のチェック」に掲載しています。
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実査とは
実査は、資産が帳簿どおりに存在するかを確認する最も確実な方法です。
「帳簿上の数量・金額と実際の存在状況との差異を把握するために行う作業」
(weblio辞書より)
上場企業などで行われている公認会計士監査でも、実査は重要な監査手続の1つです。
公認会計士監査における実査
公認会計士は監査において、現金・証書・有価証券・固定資産など、換金性の高い資産を中心に現物を直接確認します。
決算に近い日程で行われるのが一般的で、資産の存在を確実に裏づけるための手続とされています。
実査:資産の実在性を確かめるために、公認会計士が現物を実際に確かめる監査手続。現金、受取手形、株券などの資産が、帳簿どおりに実在するかどうか実際に目で見て、数を数えて確かめる最も確実な方法。実査は決算日を基準に行うが、実務的には決算日後のなるべく早い時期に会社に訪問して実施することが多い。実査の対象物には換金性の高い物が多いので、一時的に融通して不足金を隠蔽しないように、現金、受取手形、株券などは同時に実査するのが望ましい。
出典:日本公認会計士協会ホームページ「会計・監査用語かんたん解説集」より
実査の対象となる資産
固定資産に限らず、次のような資産が対象となります。
| No | 実査を行う資産 |
|---|---|
| ① | 現金・小切手 |
| ② | 預金通帳・証書 |
| ③ | 受取手形 |
| ④ | 株券・有価証券 |
| ⑤ | 固定資産 |
| ⑥ | 絵画・貴金属 |
| ⑦ | 保険証書 |
| ⑧ | 会員権など |
このうち 固定資産実査 は、法人の規模や事業特性から特に重要度が高い分野になります。
固定資産の実査で確認するポイント
固定資産の実在性を確認するだけでなく、事業に適切に使用されているか、台帳と一致しているか をあわせて確認します。
| No | 確認ポイント |
|---|---|
| ① | 現物の存在確認 |
| ② | 台帳どおりの数量か |
| ③ | 設置場所が一致しているか |
| ④ | 廃棄・除却済みでないか |
| ⑤ | 実際に使用されているか |
| ⑥ | 破損・故障の有無 |
| ⑦ | 遊休資産はないか |
| ⑧ | 遊休の場合、使用可能状態か |
| ⑨ | 貸出資産の有無 |
| ⑩ | 現物はあるが台帳に載っていない資産がないか |
これらは指導監査や専門的財務監査でも確認される項目です。
「実査」と「棚卸」の違い
固定資産について「棚卸」という表現を使う場合もあります。
両者には厳密な定義の違いはありますが、実務的には「現物を確認する手続」としてほぼ同義で用いられます。
棚卸:決算などの際に、商品・製品・原材料などの在庫を調査して数量を確かめること。資産評価を含めていう場合もある。
出典:デジタル大辞泉(小学館)より
経理規程における実査の位置づけ
経営協モデル経理規程では、
- 固定資産管理責任者を任命する
- 年度末に固定資産現在高報告書を作成する
ことが定められています。
報告書の未作成は指導監査で指摘対象になるため、経理規程に定める方法により毎年度確実に実施することが重要です。
(現物管理)
第52条 固定資産の現物管理を行うために、理事長は固定資産管理責任者を任命する。
2 固定資産管理責任者は、固定資産の現物管理を行うため、固定資産管理台帳を備え、固定資産の保全状況及び異動について所要の記録を行い、固定資産を管理しなければならない。(現在高報告)
出典:経営協「モデル経理規程」より
第54条 固定資産管理責任者は、毎会計年度末現在における固定資産の保管現在高及び使用中のものについて、使用状況を調査、確認し固定資産現在高報告書を作成し、これを会計責任者に提出しなければならない。
2 会計責任者は、前項の固定資産現在高報告書と固定資産管理台帳を照合し、必要な記録の修正を行うとともに、その結果を統括会計責任者及び理事長に報告しなければならない。
企業主導型保育園用に、経理規程を法人の実情に合わていくための「経理規程案の説明書」をご案内しています。
固定資産管理台帳と実査
多くの会計ソフトでは、固定資産台帳が自動で作成できます。
実査では、この台帳を 「帳簿」 として用い、現物との照合を行います。
▼ 実査の詳しい方法・実務の手順はこちら
固定資産の実査は、
どの順番で見ていくのか?
台帳と現物の照合はどう進めるのか?
除却漏れや遊休資産が見つかったときはどう処理するのか?
といった具体的な手順が非常に重要です。
次の記事(固定資産実査②)では、
✔ 実査の準備
✔ 台帳 → 現物の突合
✔ 現物 → 台帳の突合
✔ 実査調書の書き方
✔ 固定資産実査調書のサンプル
までを 実務ですぐ使える形で詳しく解説しています。
🔗 次の記事はこちら
▶ 社会福祉法人・企業主導型保育園のための「固定資産の実査」|会計の信頼性と資産の実在性を支える必須のチェック:実務で使える手順・実査調書サンプルつき
(参考)
固定資産管理台帳
固定資産管理台帳は、会計ソフトから出力できることが多いです。
固定資産現在高報告書
経理規程で固定資産現在高報告書を作成すると定めている法人は、未作成の場合には、指導監査で指摘を受ける可能性があります。
作成もれのないように注意しましょう。
下は、固定資産現在高報告書の様式例です。固定資産現在高報告書は、会計ソフトから出力できないことが多いでしょう。
マツオカ会計事務所では、この様式を顧問先様にお渡ししています。
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記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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