はじめに
社会福祉法人の決算書類には、
資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表 の3つがあります。
このうち、資金収支計算書については、
- なぜ社会福祉法人では必ず作成するのか
- 事業活動計算書があれば十分ではないのか
- 企業会計のキャッシュ・フロー計算書とは何が違うのか
といった疑問を持たれることが少なくありません。
この記事では、
社会福祉法人が資金収支計算書を作成する理由 を、
制度の考え方と実務の視点から整理して解説します。
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
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質問の内容
| 社会福祉法人では、なぜ資金収支計算書を作成する必要があるのですが。 |
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1.社会福祉法人会計の計算書類の全体像
社会福祉法人会計では、次の3つの計算書類を作成します。
| 区分 | 計算書類 |
|---|---|
| ① | 資金収支計算書 |
| ② | 事業活動計算書 |
| ③ | 貸借対照表 |
この並び順は偶然ではなく、
制度上、資金収支計算書が最も重要な計算書類として位置づけられている
ことを示しています。
実際、様式番号でも資金収支計算書は「第一号様式」とされています。
2.企業会計との違いから見る資金収支計算書の特徴
企業会計では、次のいわゆる「財務三表」が中心になります。
| 企業会計 | 内容 |
|---|---|
| 損益計算書 | 経営成績(利益) |
| 貸借対照表 | 財政状態 |
| キャッシュ・フロー計算書 | 現金の増減 |
ただし、キャッシュ・フロー計算書は、
主に上場企業で作成されるものであり、
中小企業では作成されていないケースも多くあります。
一方、社会福祉法人では、
- 規模の大小に関わらず
- すべての法人が
- 毎期必ず
資金収支計算書を作成することが求められています。
3.資金収支計算書が重視される理由
社会福祉法人会計で資金収支計算書が重視される最大の理由は、
予算管理の重要性 にあります。
社会福祉法人では、
- 事業収入の財源として公金(税金しゃ社会保険料)が多く用いられている
- 施設整備等補助金や委託費など、使途が制限された収入も多い
- 長期的・継続的にサービスを提供する責任がある
- 資金不足は、利用者や職員に直接影響する
という特徴があります。
そのため、
「いくら利益(増減差額)が出たか」よりも、
「実際にお金が足りているか、足りなくなる可能性がないか」
を把握することが、制度上きわめて重要とされています。
4.厚生労働省の考え方(制度的な位置づけ)
現在の社会福祉法人会計基準が策定される際、
厚生労働省はパブリックコメントの中で、
資金収支計算書を作成する理由について次のように示しています。
社会福祉法人では、予算管理の重要性から、資金収支計算書を作成することとしている。
つまり、資金収支計算書は、
- 単なる参考資料ではなく
- 制度の前提として
- 予算執行状況を確認するための計算書類
として位置づけられているのです。
(参考)厚生労働省のパブリックコメント
| NO. | 意見 | 回答(考え方) |
|---|---|---|
| 96 | 資金収支計算書はなぜ作成しなくてはいけないのか。 | 社会福祉法人では予算管理の重要性から、資金収支計算書を作成することとしています。 |
5.事業活動計算書だけでは不十分な理由
事業活動計算書では、
- 収益
- 費用
- 増減差額(純資産の増減)
を把握することができます。
しかし、事業活動計算書では、
- 実際に現金がいつ入金され、いつ支出されたか
- 借入金や設備投資による資金の動き
- 翌期に繰り越せる資金がどれだけあるか
といった 「資金の動き」そのもの は分かりません。
資金収支計算書は、これらを補完し、法人の資金繰りを可視化する役割 を担っています。
6.資金収支計算書の本質的な役割
資金収支計算書の役割を一言で表すと、次のようになります。
「その年度の事業を、資金面から無理なく運営できていたかを確認するための計算書類」
予算と実績を比較し、
- 予定どおり資金が動いているか
- 想定外の支出が発生していないか
- 将来の資金不足につながる兆候がないか
を確認することが、社会福祉法人の健全な運営につながります。
まとめ|なぜ資金収支計算書が必要なのか
最後に要点を整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ① | 社会福祉法人では予算管理が特に重要 |
| ② | 資金収支計算書は資金の動きを把握するための計算書類 |
| ③ | 事業活動計算書だけでは資金繰りは分からない |
| ④ | 制度上、資金収支計算書は第一号様式として位置づけられている |
| ⑤ | 利用者・職員・事業継続を守るために不可欠な計算書類 |
資金収支計算書は、
社会福祉法人の運営を「お金の面から支える土台」
となる計算書類です。
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著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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