はじめに(前回のおさらい)
前回の記事では、「波長が合うとはどういう状態なのか」について、物理学・脳科学・心理学の視点から、共鳴・情動伝染・脳波同期などの仕組みを確認しました。
人と人の波長が合う時、
・話がスムーズに進む
・相手と自然に気持ちが通じる
・安心感が生まれる
・利用者への対応が穏やかになる
といった現象が起こります。
今回はその続編として、「波長を良い状態に整える方法」について、科学的根拠をもとに解説していきます。
シリーズ第1回のテーマは「良い波長の正体」と「1/fゆらぎ」です。
良い波長とは何か(科学的な捉え方)
「波長が良い」と聞くと抽象的に感じられますが、実際には心と身体のリズムが整った状態を指します。
人の内部には、
・呼吸
・心拍
・筋肉の緊張
・脳波
・感情の起伏
といった無数のリズムがあります。これらが落ち着いて同期しやすい状態になると、次のような特徴が現れます。
・落ち着いて話せる
・イライラしにくい
・判断がクリアになる
・優しく対応できる
つまり、「良い波長」は感覚的なものではなく、自律神経の安定が生み出す“身体の状態”です。
1/fゆらぎとは何か(自然界にある“心地よいリズム”)
1/f(いちえふ)ゆらぎとは、「規則性」と「不規則性」がちょうど良く混ざり合ったリズムのことです。
自然界の多くの“心地よいもの”は、この1/fゆらぎを持っています。
・波の音
・小川のせせらぎ
・木の葉が揺れる音
・焚き火のゆらぎ
・キャンドルの光
・人の安定した呼吸
これらに触れると、人の心拍や脳波が自然と整い、集中とリラックスが両立した状態になりやすくなります。
「1/fゆらぎは脳の処理負荷を下げ、安心を感じやすくする」と説明されています。
呼吸と自律神経──良い波長の出発点
深い呼吸は、良い波長をつくる基盤となります。
・ゆっくりした腹式呼吸
・長めの息を吐く
・姿勢を正す
こうした動作によって副交感神経が優位になり、心拍が落ち着き、脳が「安全」と判断します。「呼吸のゆらぎ」は1/fゆらぎと近く、呼吸が整うことで波長も安定していきます。
人と人の波長はなぜ合うのか(共鳴・情動伝染・脳波の同期)
前回の記事にあったように、人は相手の動きや声のトーンを無意識に模倣します。
・表情の模倣(ミラーリング)
・声の高さ・速度の一致
・会話のテンポの同期
・共同作業中の脳波の同期
こうした現象が重なることで、「この人といると落ち着く」「話しやすい」と感じやすくなります。
福祉の現場で、利用者の気持ちの変化が職員に伝わるのも、この仕組みによるものです。
1/fゆらぎを職場に取り入れる方法(実践編)
報告書1の内容から、実際に取り入れやすい方法を紹介します。
聴覚:自然音・環境音を小さな音量で流す
・波音
・せせらぎ
・雨音
・歌詞のないBGM
・ホワイトノイズ
「小さく流す」ことで雑音をマスキングし、集中しやすい環境になります。
視覚:視界の単調さを減らす
・観葉植物
・間接照明
・自然素材(木・布)
視覚のゆらぎが加わるだけで脳の緊張が緩みます。
嗅覚:香りを使って気分を切り替える
・朝:レモン・グレープフルーツ(覚醒)
・昼:ミント(リセット)
・夕方:ラベンダー・ヒノキ(鎮静)
嗅覚は脳の感情中枢に直結しているため、短時間で効果が表れます。
触覚:安全感を生む素材を使う
・木製の家具
・柔らかいクッション
・温かいひざ掛け
触覚は“安全”という感覚と深く結びついています。
福祉の現場で波長を整える意義
福祉の介護・障がい・保育の現場では、利用者の非言語的な感情が職員に伝わりやすく、職員の波長がそのまま支援の質に影響します。
環境を少し整えるだけで、
・職員の声のトーンが穏やかになる
・利用者の不安が軽減される
・ケアの時間がスムーズになる
・ミスや思い違いが減る
こうした変化が起きやすくなります。
まとめ
・良い波長とは、心身のリズムが整った状態のこと
・1/fゆらぎは「心地よいリズム」の代表で、人の自律神経を整える
・五感を整えることで、誰でも良い波長をつくることができる
・福祉現場では、利用者の安心感にも直結するため効果が大きい
次回は、「五感の調和」を活用した環境づくりを解説します。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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