はじめに
社会福祉法人の理事を選任する際には、
「理事になることができない者(欠格事由)」 と
「理事に選任することが適切でない者(特殊関係者・その他)」
の両方を確認する必要があります。
これらの確認は、
- 法令(社会福祉法・施行規則)
- 社会福祉法人審査基準
- 指導監査ガイドライン
を総合して判断する必要があり、
評議員会の選任手続きの中で、記録として残すことが非常に重要です。
本記事では、理事の選任時に必ず押さえるべき禁止・制限のルールについて、
わかりやすく整理して解説します。
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
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1.理事の選任時に確認すべき2つの領域(全体像)
理事を選任する際に確認すべきポイントは、この2つです。
| No | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 理事になることができない者(欠格事由) | 法令上、理事に選任できない者 |
| ② | 理事に選任することが適切でない者 | 特殊関係者の上限超過、名目的選任など |
まず①(欠格事由)をクリアできていることが必須。
そのうえで②(適切性の判断)を確認します。
2.理事になることができない者(欠格事由)
社会福祉法 第44条は、理事の欠格事由として「評議員の欠格事由(第40条)」を準用すると規定しています。
欠格事由の一覧は次のとおりです。
| No | 欠格事由(社会福祉法に基づく) |
|---|---|
| ① | 法人 |
| ② | 心身の故障により職務遂行に必要な認知・判断・意思疎通ができない者 |
| ③ | 福祉関係法令に違反して刑に処され、その執行中・未了の者 |
| ④ | 上記以外で禁固以上の刑の執行中・未了の者 |
| ⑤ | 解散命令を受けた法人の解散当時の役員 |
| ⑥ | 暴力団員または暴力団員でなくなって5年以内の者 |
これらに該当する場合、理事に選任することはできません。
3.理事に選任することが適切でない者(法令+審査基準)
欠格事由には該当しなくても、理事にすることが適切でないと判断されるケースがあります。
代表的なのは次の2つです。
3-1.特殊関係者の上限超過(最重要)
社会福祉法 第44条 第6項 では、理事総数の3分の1を超える特殊関係者を理事に含めてはならない
と規定されています。
さらに社会福祉法人審査基準では、
✔ 特殊関係者の上限は「最大3名」
と明示されています。
両者をまとめると:
| 判定基準 | 内容 |
|---|---|
| 法律上の基準 | 特殊関係者は 理事総数の3分の1以下 |
| 審査基準 | 特殊関係者は 最大3名まで |
第3 法人の組織運営
出典:厚生労働省「社会福祉法人審査基準」より
3 理事
(4) 理事には、理事本人を含め、その配偶者及び3親等以内の親族その他各理事と特殊の関係のある者(以下(4)において「理事の親族等特殊関係者」という。)が理事の総数の3分の1を超えて含まれてはならないこと(法第44条第6項及び施行規則第2条の10)。ただし、理事の親族等特殊関係者の上限は3人であること。
● 特殊関係者の範囲
施行規則 第2条の10 により、次が特殊関係者として定められています。
- 配偶者
- 3親等以内の親族
- 婚姻届をしていないが事実婚にある者
- 理事の使用人
- 理事からの金銭等で生計維持する者
- 同一団体の役員等で割合が3分の1超となる場合
- 国・自治体等の職員(一定の場合)
※法人が租税特別措置法第40条の適用を受ける場合は、特殊関係者の範囲が追加されるため定款で明記が必要。
3-2.名目的・慣習的な選任(指導監査の判断)
指導監査ガイドラインでは、実際に理事会に参加できない者の名目的選任は不適切と明確に示されています。
▼ 不適切と判断される例
- 理事会を2回以上連続欠席(正当理由がない場合)
- 市長・町長などの公職で、参加が困難な者
- 慣習的に「毎回この人を理事にしている」という場合
※ 重要
決議の省略(みなし決議)が行われた場合は「出席」とみなされるため、欠席数のカウントには注意が必要。
○理事会の役割の重要性に鑑みれば、実際に理事会に参加できない者や地方公共団体の長等の特定の公職にある者が名目的・慣例的に理事として選任され、その結果、理事会を欠席することとなることは適当ではないため、理事にこのような者がいないかについて確認する。
厚生労働省 指導監査ガイドラインより「1 理事となることができない者又は適切ではない者が選任されていないか。着眼点、指摘基準、確認書類」より
この場合の理事として不適当であると判断するための基準は、原則として、前年度から当該年度までの間において理事会を2回以上続けて欠席している者であることによることとする(なお、決議の省略を行った場合は、出席とみなして差し支えない)。
4.関係行政庁の職員が理事となる場合の注意点
指導監査ガイドラインでは、公私分離の原則(社会福祉法 第61条)の観点から、関係行政庁の職員が理事となることに注意すべきとされています。
ただし社会福祉協議会については例外的に、「役員総数の5分の1を超えない範囲」で認められるなど、
法人の性質に応じた取扱いがあります。
○ 上記(注2)特殊の関係にある者の③のⅶに該当しない場合であっても、関係行政庁の職員が法人の理事となることは、法第61 条に「国及び地方公共団体は法人の自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと」(第1項第2号)及び「法人が国及び地方公共団体に対して不当に管理的援助を求めないこと」(同項第3号)と規定し、公私分離の原則を定める趣旨に照らすと適当ではないことに所轄庁等関係行政庁は留意する必要がある。
○ 社会福祉協議会については、公私の関係者の協力によって組織され運営されるものであることから、関係行政庁の職員が役員となることのみをもって不当な関与であるとはいえないが、役員総数(注3)の5分の1を超える割合を占める場合は、不当な関与といえるため、法により認められていない(法第109 条第5項)。
厚生労働省 指導監査ガイドラインより「1 理事となることができない者又は適切ではない者が選任されていないか。着眼点、指摘基準、確認書類」より
(注3)法第109 条第5項は、役員総数に対する関係行政庁の職員である役員の割合について規定しており、役員、すなわち、理事と監事の合計数で判断される。
5.評議員会での確認と記録(選任手続きの実務)
理事の選任では、
欠格事由・特殊関係者・不適切な場合の有無を、評議員会の中で説明し記録に残すことが必須です。
▼ 評議員会での確認事項
- 履歴書・職歴により欠格事由に該当しないことを確認
- 誓約書により「欠格事由・特殊関係者の有無」の確認
- 特殊関係者がいる場合、法令・審査基準の上限内であること
- 名目的選任に該当しないか確認
- 上記を議事録に記録
▼ 添付すべき書類
- 理事候補者全員の履歴書
- 欠格事由および特殊関係者に該当しない旨の誓約書
(新任・再任ともに提出が必要)
6.実務ですぐ使えるチェックリスト
- 欠格事由に該当していないか
- 特殊関係者が上限(3名・1/3)を超えていないか
- 名目的・慣習的選任でないか
- 関係行政庁の職員が多く含まれていないか
- 評議員会で確認し議事録に記録したか
- 全員分の履歴書・誓約書が揃っているか
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参考条文
理事の欠格事由
(役員の資格等)
社会福祉法
第四十四条
第四十条第一項の規定は、役員について準用する 。
(評議員の資格等)
第四十条 次に掲げる者は、評議員となることができない。
一 法人
二 心身の故障のため職務を適正に執行することができない者として厚生労働省令で定めるもの
三 生活保護法、児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法又はこの法律の規定に違反して刑に処せられ、
その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
四 前号に該当する者を除くほか、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることが
なくなるまでの者
五 第五十六条第八項の規定による所轄庁の解散命令により解散を命ぜられた社会福祉法人の解散当時の役員
六 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する
暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなつた日から五年を経過しな
い者(第百二十八条第一号ニ及び第三号において「暴力団員等」という。)
特殊関係者
(役員の資格等)
社会福祉法
第四十四条
6 理事のうちには、各理事について、その配偶者若しくは三親等以内の親族その他各理事と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者が三人を超えて含まれ、又は当該理事並びにその配偶者及び三親等以内の親族その他各理事と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者が理事の総数の三分の一を超えて含まれることになつてはならない。
社会福祉法施行規則
社会福祉法施行規則では、特殊関係者の範囲について、下のように具体的に定めています。
(理事のうちの各理事と特殊の関係がある者)
社会福祉法施行規則
第二条の十 法第四十四条第六項に規定する各理事と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 当該理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 当該理事の使用人
三 当該理事から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持している者
四 前二号に掲げる者の配偶者
五 第一号から第三号までに掲げる者の三親等以内の親族であつて、これらの者と生計を一にするもの
六 当該理事が役員(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあつては、その代表者又は管理人。
以下この号において同じ。)若しくは業務を執行する社員である他の同一の団体(社会福祉法人を除く。)の役
員、業務を執行する社員又は職員(当該他の同一の団体の役員、業務を執行する社員又は職員である当該社会福祉法人の理事の総数の当該社会福祉法人の理事の総数のうちに占める割合が、三分の一を超える場合に限る。)
七 第二条の七第八号に掲げる団体の職員のうち国会議員又は地方公共団体の議会の議員でない者(当該団体の職員(国会議員又は地方公共団体の議会の議員である者を除く。)である当該社会福祉法人の理事の総数の当該社会福祉法人の理事の総数のうちに占める割合が、三分の一を超える場合に限る。)
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記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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