マツオカ会計事務所

令和7年度 介護事業経営概況調査の結果(案)を読み解く|介護事業の収支・赤字割合・人件費の現状

令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要を読み解く

(出典:厚生労働省「令和7年度 介護事業経営概況調査結果の概要(案)」 令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(案) 7.11.26)

■ はじめに

厚生労働省の「介護事業経営概況調査(令和7年度)」が公表されました。この調査は、次期介護報酬改定の基礎資料として用いられる非常に重要なデータです。
この記事では、公表された資料を基に介護サービス事業の現状をわかりやすく整理します。




■1.調査の概要(なぜ行われるのか)

1. 調査の概要

※今回の調査は「改定後2年目」の収支構造を正確に把握するための概況調査です。


■2.収支差率の全体傾向

収支差率(税引前、物価高騰対策関連補助金を含まない)について、令和6年度決算の結果と、前年度(令和5年度決算)からの増減をまとめます。

●サービス別の状況

サービスの種類令和6年度決算 (収支差率)対前年度増減コメント(前年度比)
全サービス平均4.7%0.0%前年度と変わらず
施設サービス
介護老人福祉施設1.4%+0.1%わずかに改善
介護老人保健施設0.6%+1.2%大幅に改善
介護医療院3.5%▲0.7%悪化
居宅サービス
訪問介護9.6%▲1.5%悪化
訪問看護10.3%▲1.6%悪化
通所介護6.2%▲0.3%わずかに悪化
地域密着型サービス
定期巡回・随時対応型訪問介護看護13.4%▲1.2%悪化
夜間対応型訪問介護12.8%▲2.4%大きく悪化
看護小規模多機能型居宅介護6.5%+1.5%大幅に改善
令和7年度 介護事業経営概況調査結果の概要(案)」 令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)を基に作成

●ポイント

在宅系サービス(訪問系)での収支悪化が目立ちます。一方、介護老人保健施設の収支改善は特徴的です。


■3.赤字事業所の割合

令和6年度決算において、赤字事業所の割合は全サービス平均で37.5%、黒字事業所は62.5%でした 。

サービス種別ごとの赤字事業所割合は以下の通りです

全サービス平均

●ポイント

施設サービスは赤字割合 44.8% と特に高く、構造的な厳しさが見える。


■4.給与費割合(=人件費)との関係

令和5年度決算と比較して、令和6年度決算では多くのサービスで収支差率が低下(悪化)し、一方で収入に対する給与費の割合が増加している傾向が見られます 。

多くのサービスで、

例:

※処遇改善は進む一方、事業所の収支は圧迫される構造が続いています。

●ポイント

介護老人保健施設は収支差率が**+1.2%と大きく改善しましたが、給与費の割合は▲0.7%**と低下しています 。これは、費用である給与費の抑制や、その他の要因で収入が増加した可能性を示唆します。

●サービス別の状況

サービスの種類収支差率(前年度比)収入に対する給与費の割合(前年度比)
訪問介護▲1.5%+0.8%
訪問看護▲1.6%+1.4%
通所介護▲0.3%+0.2%
短期入所生活介護▲1.4%+0.6%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護▲1.2%+1.0%
令和7年度 介護事業経営概況調査結果の概要(案)」 令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)を基に作成


■5.今回の調査から読み取れる3つのメッセージ

① 介護事業の経営は二極化が進む

黒字は62.5%ある一方、赤字も37.5%と高率。
特に施設系サービスの赤字割合が高い。

② 人件費上昇が収支悪化の主因となっている

給与費割合の増加が多くのサービスで見られる。
「賃上げ」と「経営の持続性」のバランスがますます課題に。

③ 在宅サービスの収支悪化が目立つ

訪問系の悪化幅は大きく、事業継続へのリスク増大が懸念される。


■6 介護事業経営概況調査の結果:参考資料

令和7年度 介護事業経営概況調査結果には、参考資料も公表されています。参考資料からさらに深掘く読み解いてみましょう。

1. 収支差率の全体分布(令和6年度決算)

全サービス平均の「税引前収支差率(物価高騰対策関連補助金を含まない)」の分布を見ると、事業所間の収益格差が広がっている、または低収益事業所が増加している傾向が確認されました。

●ポイント

2. 収支差率の経年推移(R4〜R6年度決算)

介護報酬改定前年(令和4年度決算)から令和6年度決算までの推移を比較しています。

3. 収入に対する給与費の割合の経年推移(R4〜R6年度決算)

4. 【特筆すべき点】訪問介護の詳細な分布(R6年度決算)

訪問介護サービスに特化した分析では、収支状況の厳しさがより明確になっています。

5.さらに、参考資料から読み解ける4つのポイント

①訪問系サービス:移動時間・同一建物減算の影響

参考資料の「移動時間別」「同一建物減算の有無別」の収支差率は、訪問系の実態を強く反映している。

●ポイント

訪問系サービスは、

特に移動時間30分未満の訪問は比較的収支が安定し、1時間以上では収支差率が急低下している。
これは 都市型と地方型で採算構造が大きく異なる ことを意味するため、制度改正では“地域特性の考慮”が欠かせない。

●同一建物減算の算定有無別の収支差率について(令和6年度決算)
区分全体同一建物減算あり減算なし
訪問介護9.6%  
 (10%減算)11.5%10.0%
 (12%減算)7.7% 
訪問入浴介護5.3%5.5%
訪問看護10.3%8.6%10.6%
訪問リハビリテーション10.8%16.9%9.9%
通所介護6.2%7.1%6.1%
通所リハビリテーション2.0%1.7%2.0%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護13.4%  
 (△600単位)7.4%14.2%
 (△900単位)23.5% 
夜間対応型訪問介護12.8%12.8%
地域密着型通所介護6.3%5.5%6.4%
認知症対応型通所介護5.3%13.1%4.8%
小規模多機能型居宅介護6.0%7.8%5.6%
看護小規模多機能型居宅介護6.5%5.6%6.9%
令和7年度介護事業経営概況調査参考資料を基に作成
●訪問先別の収支差率について(令和6年度決算)
区分全体5分未満5分以上
15分未満
15分以上
30分未満
30分以上
45分未満
45分以上
1時間未満
1時間以上
訪問介護9.6%8.7%9.6%9.4%3.5%11.0%
訪問入浴介護5.3%8.3%6.7%2.5%-0.8%
訪問看護10.3%11.9%14.7%7.7%14.1%
訪問リハビリテーション10.8%10.5%10.9%9.7%
居宅介護支援6.2%7.2%5.9%5.2%8.7%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護13.4%12.6%16.6%12.8%
夜間対応型訪問介護12.8%5.4%22.0%
令和7年度介護事業経営概況調査参考資料を基に作成

②派遣委託費・紹介手数料:サービス別の人材難が数字に

参考資料の「派遣委託費」「人材紹介手数料」はサービス間の差が大きい。

●ポイント

訪問入浴、グループホーム、小規模多機能など、特に人手確保が難しいサービスでは、手数料割合が高い傾向にある。
これは 必要人員が多く、代替がききにくいサービスほど紹介依存度が上がる からであり、人材市場の変化が経営に直結している。

●派遣委託費の状況について(令和6年度決算)

○ 令和6年度決算において派遣委託費の費用計上があった施設・事業所の状況(単位 千円/月)

 区分施設・事業所数
(集計対象数)
収入支出給与費派遣委託費
 対収入
割合
対支出
割合
対給与費
割合
abcdd/ad/bd/c
介護老人福祉施設48730,81730,28718,9379223.0%3.0%4.9%
介護老人保健施設14740,22239,89625,4049452.3%2.4%3.7%
介護医療院8433,57632,66419,8424211.3%1.3%2.1%
訪問介護466,7856,3383,9535418.0%8.5%13.7%
訪問入浴介護1144,8004,5512,8944479.3%9.8%15.4%
訪問看護113,4083,3142,397872.5%2.6%3.6%
訪問リハビリテーション791,5831,4301,004342.2%2.4%3.4%
通所介護896,3846,0773,6952113.3%3.5%5.7%
通所リハビリテーション765,6705,4453,4821632.9%3.0%4.7%
短期入所生活介護1135,2085,1453,0082003.8%3.9%6.7%
特定施設入居者生活介護26726,04724,85110,8436442.5%2.6%5.9%
福祉用具貸与
居宅介護支援251,4121,3151,007584.1%4.4%5.8%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護4210,0649,5728,0382032.0%2.1%2.5%
夜間対応型訪問介護
地域密着型通所介護353,2113,0762,003611.9%2.0%3.1%
認知症対応型通所介護382,6122,4931,5821244.7%5.0%7.8%
小規模多機能型居宅介護445,7215,3423,5884017.0%7.5%11.2%
認知症対応型共同生活介護937,6097,3464,5534145.4%5.6%9.1%
地域密着型特定施設入居者生活介護4110,13510,0145,4485045.0%5.0%9.3%
地域密着型介護老人福祉施設17211,79111,5987,2783833.2%3.3%5.3%
看護小規模多機能型居宅介護857,9117,4144,9273164.0%4.3%6.4%
令和7年度介護事業経営概況調査参考資料を基に作成
●人材紹介手数料の状況について(令和6年度決算)

○ 令和6年度決算において人材紹介手数料の費用計上があった施設・事業所の状況(単位 千円/月)

 区分施設・事業所数
(集計対象数)
収入支出給与費人材紹介手数料
 対収入
割合
対支出
割合
対給与費
割合
abcdd/ad/bd/c
介護老人福祉施設38031,52831,06719,6123671.2%1.2%1.9%
介護老人保健施設20540,88940,59325,9353290.8%0.8%1.3%
介護医療院12538,16336,91422,7272310.6%0.6%1.0%
訪問介護545,0934,7853,402851.7%1.8%2.5%
訪問入浴介護103,3122,9672,2992256.8%7.6%9.8%
訪問看護505,1244,6013,6001242.4%2.7%3.4%
訪問リハビリテーション1121,2511,13577680.6%0.7%1.0%
通所介護626,8686,5424,256781.1%1.2%1.8%
通所リハビリテーション907,0666,9024,488490.7%0.7%1.1%
短期入所生活介護604,8944,7952,853460.9%1.0%1.6%
特定施設入居者生活介護9628,36926,54011,9642600.9%1.0%2.2%
福祉用具貸与
居宅介護支援281,2981,212948292.3%2.4%3.1%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護539,2017,4606,3401011.1%1.4%1.6%
夜間対応型訪問介護
地域密着型通所介護333,2572,9401,975401.2%1.4%2.0%
認知症対応型通所介護174,0754,0552,823441.1%1.1%1.6%
小規模多機能型居宅介護215,6965,3513,552761.3%1.4%2.2%
認知症対応型共同生活介護578,6648,2335,4602923.4%3.5%5.3%
地域密着型特定施設入居者生活介護279,8159,2845,4971551.6%1.7%2.8%
地域密着型介護老人福祉施設10311,88111,7947,5211251.1%1.1%1.7%
看護小規模多機能型居宅介護707,7017,5145,2591181.5%1.6%2.2%
令和7年度介護事業経営概況調査参考資料を基に作成

③施設系サービス:食費・居住費の基準費用額と実態

参考資料の「食費・居住費の平均費用額」は、食材費・光熱費の高騰が直撃していることを示している。

●ポイント

施設サービスでは、

事業努力で改善しづらい領域が多く、制度的支援がなければ経営の安定は難しい。

④収支差率の分布:黒字・赤字の広がり

収支差率分布を見ると、同じサービスでもバラつきが極めて大きい。

●ポイント

特に訪問介護は、

これは、


■まとめ①

令和7年度の概況調査は、次期介護報酬改定の方向性を左右する重要データです。
「施設の赤字増」「訪問系の収支悪化」「人件費の上昇」という三つの構造問題が浮き彫りになりました。

事業所としては、


📌 まとめ②(参考資料も含めたまとめ)

参考資料は、「平均値」だけでは見えにくかった「経営の二極化」「構造的な課題」を浮き彫りにしています。

  1. 平均値の裏にある収益構造の悪化: 全サービス平均の収支差率が横ばい(4.7%)であるにもかかわらず、低収益層(5%未満)の事業所が明確に増加し、高収益層(10%以上)が減少している事実は、多くの事業所が収益性の低下に直面していることを示します。

    特に、大規模な事業所が平均を押し上げている可能性があり、個々の事業所の経営は体力を失いつつあると解釈できます。

  2. 訪問介護におけるコスト増と収益悪化の同時進行: 訪問介護は、R6年度に収支差率が低下(9.6%)しただけでなく、給与費の割合(67.8%)が増加しており、コスト上昇分を価格転嫁できていないか、またはコスト増が収益を直接的に圧迫している構造が明確です。

    給与費割合が70%を超える事業所が増えている点も、人件費高騰が経営の大きな足かせとなっていることを裏付けています。

  3. 介護報酬改定に向けた示唆: これらのデータは、次期介護報酬改定において、介護職員の賃上げを継続しつつ、特に訪問系サービスなど収益性が悪化している分野に対して、手厚い加算や基本報酬の引き上げなど、構造的な経営改善に繋がる措置が必要であることを強く示唆しています。

    特に、経営悪化の要因が人件費にある場合、職員の処遇改善と事業所の持続可能性の両立が、喫緊の課題であることが分かります。

記事の執筆者のご紹介

著者情報 この記事を書いた人

松岡 洋史

Matsuoka Hiroshi

公認会計士・税理士 
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員

マツオカ会計事務所 代表  松岡 弘巳

地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。


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