前回の記事では「現金実査(げんきんじっさ)」の重要性をご紹介しました。
実査は、帳簿と実際の現金残高を照合して正確性を確認するための、法人運営に不可欠な手続きです。
しかし、正しい現金実査を行うためには、その前提として
「現金管理(キャッシュ・マネジメント)」が適切に機能していること
が欠かせません。
社会福祉法人や企業主導型保育園では、利用料や企業拠出金、補助金、行事費、立替金など、現金を扱う場面が多く、現場の忙しさから管理が乱れがちです。
そのままにしておくと、専門的財務監査(企業主導型保育園) や 指導監査(社会福祉法人) で指摘されやすいポイントにもなります。
この記事では、社会福祉法人・企業主導型保育園を専門にする公認会計士・税理士が現金管理の目的と実務で押さえるべきポイントを、福祉・保育の現場に合わせて解説します。
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1. 現金管理とは何か?
――法人の現金を「安全」「正確」「効率的」に保つ仕組み
現金管理とは、
現金を安全に保管し、正確に記録し、効率よく使うためのルールと実務のこと です。
目的は大きく次の2つに集約されます。
- ① 資金の効率的な運用
- ② 不正・誤謬(ミス)の防止
そして現金管理は、以下の3つの要素で構成されています。
- 組織的・人的管理(職務の分離・責任の明確化)
- 物理的管理(現物の保全)
- 会計的・記録的管理(帳簿・証憑・実査)
2. 組織的・人的管理:不正とミスを防ぐ「職務の分離」
社会福祉法人
社会福祉法人や企業主導型保育園では、少人数で経理を兼務しているケースが多く、
出納(現金の受払)と記帳(帳簿記録)が同じ人になりやすい傾向があります。
これは内部統制上、不正が起こりやすい可能性がある状態です。
● 出納担当と記帳担当を分ける(原則)
同一人物が現金も帳簿も管理すると、
着服 → 帳簿改ざんにより隠せてしまう可能性があります。
可能な範囲で役割を分け、相互チェックが働く体制にします。
職員数の制限などから同一人物が行う場合には、管理職(会計責任者等)の日常的なチェックが大切にります。
● 現金実査は必ず別の職員が行う
実査担当者は出納・記帳担当者とは分離する。または会計責任者等が一緒に実施します。
企業主導型保育園の専門的財務監査では、実査担当者についても確認されます。
● 責任者を明確にする
小口現金の管理方法・金庫の鍵・暗証番号・現金管理の責任者を文書で明確化。
担当者の範囲も必要最小限に限定します。
3. 物理的管理:現金そのものを守る仕組み
● 金庫の利用と鍵管理の徹底
持ち運びしにくい場所への設置、暗証番号の秘匿、予備鍵の厳重管理は必須です。
小口現金の業務時間中の管理と業務時間外の保管方法にも注意しましょう。
● 小口現金以外の現金は極力保管しない
大量の現金を施設内に置くほど、盗難・紛失リスクが高まります。
● 出納帳による管理(入出金の記録)
いつ・誰が・いくら・何の目的で現金を動かしたのかを出納帳に記録し、定期的に会計責任者の承認を得ます。
4. 会計的・記録的管理:帳簿と証憑を整える
● 現金出納帳の整備(必須)
すべての入出金を正確に記録し、証憑と突き合わせます。
領収書・請求書など、外部証拠の整備が監査の大きなポイントです。
● 銀行勘定調整表の作成
通帳残高と帳簿残高が一致しているかを定期確認し、ズレの原因を明確にします。
● 現金実査の実施
現金管理の最終チェックが実査です。
帳簿残高と実残高の一致を確認し、ズレがあれば原因を必ず究明します。
企業主導型保育園では現金実査の不備は「よくある指摘事項」であり、
社会福祉法人の指導監査でも必ず確認されます。
5. 小口現金制度の注意点(現場で最もつまずきやすい部分)
社会福祉法人や保育園で特に問題になりやすいのが、
小口現金と利用者等から受け取る現金の混在 です。
● 小口現金と現金は必ず別々に管理する
- 小口現金出納帳
- 現金出納帳(利用料・企業拠出金 等)
この2つが混ざると、資金の流れが追えなくなり、監査で必ず指摘されます。
● 小口現金の補充は「現金から行わない」
これも非常によくある誤りです。
銀行口座→小口現金への補充が原則。
● 受け入れた現金は速やかに銀行へ入金する
経理規程で定めた期限内に必ず入金することが求められます。
施設内に現金を滞留させないことが、不正防止にもつながります。
6. 現金管理を徹底するメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 資金効率の改善 | 不必要に現金を滞留させず、資金繰りが安定する。 |
| 不正・誤謬の防止 | 職務分離と記録の徹底で、横領・ミスのリスクが減る。 |
| 監査対応力の向上 | 財務監査(企業主導型保育)・指導監査(社会福祉法人)での指摘が減る。 |
| 正確な経営判断 | 常に正確な現金残高が分かり、意思決定が早くなる。 |
現金管理は、日々の小さなルールの積み重ねが、監査の安心と経営の安定に直結します。
7. まとめ:現金管理は現金実査の“土台”となる内部統制
現金実査だけを強化しても、
その前提である「現金管理のルール」が整っていなければ、
過不足や不正のリスクは減りません。
社会福祉法人・企業主導型保育園では、
現金の受入・支払が多岐にわたるため、一般企業よりも管理の難易度が高くなります。
まずは「現金管理」を整え、その上で「現金実査」を確実に行う。
この2つのセットが、法人運営の健全性を大きく高めます。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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