令和7年度 障害福祉サービス等経営概況調査の結果を読み解く|障がい福祉事業の収支・赤字割合・人件費の現状
(出典:厚生労働省「令和7年度 障害福祉サービス等経営概況調査結果の概要」 令和7年度障害福祉サービス等経営概況調査結果の概要)
■ はじめに
厚生労働省の「障害福祉サービス等経営概況調査結果(令和7年度)」が公表されました。この調査は、次期障害福祉サービス等報酬改定の基礎資料として用いられる非常に重要なデータです。
この記事では、公表された資料を基に障がい福祉サービス事業の現状をわかりやすく整理します。
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📝 令和7年 障害福祉サービス等経営概況調査結果の概要のまとめ
1. 調査の概要
- 目的: 障害福祉サービス等施設・事業所の経営状況を明らかにし、次期報酬改定のための基礎資料を得る。
- 調査時期: 令和7年6月~7月(令和5年度決算および令和6年度決算を調査)。
- 有効回答数・率: 7,263施設・事業所(有効回答率: 50.5%)。
2. 収支差率の状況(令和6年度決算)
税引前収支差率(物価高騰対策関連補助金を含まない)について、全サービス平均で大幅な悪化が見られました。
| 項目 | 令和5年度決算 (収支差率) | 令和6年度決算 (収支差率) | 増減 |
| 全サービス平均 | 5.6% | 3.8% | ▲1.8% |
サービス類型別の収支差率と悪化幅(R6決算)
ほとんどのサービス類型で収支差率が大幅に低下しています。
| サービス類型 | 令和6年度決算 | 増減(対前年度) | コメント |
| 日中活動系サービス | 3.2% | ▲2.1% | 大きく悪化 |
| 訪問系サービス | 3.5% | ▲1.3% | |
| 就労系サービス | 3.9% | ▲1.6% | |
| 居住系サービス | 2.3% | ▲0.9% | 低い水準 |
| 施設入所支援 | 2.0% | ▲0.7% |
3. 赤字事業所・黒字事業所の割合(令和6年度決算)
全サービス平均で、赤字事業所の割合は43.8%となり、前年度(37.2%)から約6.6ポイント増加し、経営状況の厳しさが顕著に増しています。
- 全サービス平均(R6): 赤字 43.8%、黒字 56.4%。
- 最も赤字割合が高いサービス: 放課後等デイサービス(48.4%)、共同生活援助(グループホーム)(45.4%)。
- 最も悪化幅が大きいサービス: 地域相談支援(地域移行支援)は、R5の46.1%からR6には64.4%と、赤字割合が大幅に増加し、約3分の2が赤字となっています。
4. 収入に対する給与費の割合
多くのサービスで収支差率が悪化する一方で、収入に占める給与費の割合は上昇しています。
| 項目 | 令和5年度決算 | 令和6年度決算 | 増減 |
| 全サービス平均 | 72.8% | 73.6% | +0.8% |
📌 コメント
本調査結果は、介護保険サービスと比較しても、障害福祉サービス等事業所の経営状況が急速かつ大幅に悪化していることを示しています。
- 危機的な収支の悪化: 全サービス平均の収支差率が1.8ポイントも低下し(5.6% → 3.8%)、赤字事業所の割合が4割を超え(43.8%)、前年度から大きく増加しました。これは、障がい福祉サービス事業所の約半数が既に赤字経営に陥っていることを意味し、サービスの安定供給体制が厳しい状況にあることを示唆しています。
- 人件費高騰による経営圧迫: 収支の悪化と並行して、全サービス平均で収入に対する給与費の割合が73.6%と非常に高く、さらに前年度から増加しています。これは、障がい福祉サービス分野でも賃上げや人材確保のためのコスト増が進行しており、そのコスト増を報酬で適切にカバーできていない構造的な問題があることを示しています。
- 特に厳しい居住系・日中活動系サービス:
- 居住系サービス(グループホームなど)は、収支差率が2.3%と全サービス類型で最も低く、赤字割合も高いため、利用者ニーズの増加に反して経営基盤が極めて脆弱です。
- 日中活動系サービスは、収支差率の悪化幅が最も大きく、サービス提供体制の維持が困難になりつつある可能性があります。
今回の結果は、次期障害福祉サービス等報酬改定において、介護分野以上に抜本的な基本報酬の引き上げや、構造的なコスト増(特に人件費)を補填するための強力な財政措置が不可欠であることを強く示唆しています。特に、赤字割合が急増しているサービス種別(地域相談支援、放課後等デイサービスなど)への緊急的な対応が求められます。
📝 令和6年度報酬改定後の動向に関するまとめ
今回、経営概況調査結果と合わせて公表された「令和6年度報酬改定後の動向について」の資料は、令和6年度の障害福祉サービス等報酬改定が現場のサービス提供体制にどのような影響を与えたかを補足する、非常に重要なデータの1つです。
以下の通り、主要な動向をまとめ、コメントします。
資料では、報酬改定の主要な施策が、人員配置、加算の算定状況、サービス提供実績にどのように反映されたかを分析しています。
1. 人員配置加算・手当の算定状況
障害福祉分野における人材確保・定着のための加算の算定率は、介護分野と比較して低い傾向にあります。
- 福祉専門職員配置等加算:
- 算定率が低い: 算定率が50%未満のサービス(就労移行支援、自立訓練(生活訓練)、居宅介護など)が多く、特に就労移行支援は20%台と極めて低い水準です。
- 考察: この加算は、福祉専門職員の配置や勤続年数に応じて評価するものであり、算定率の低さは、専門性の高い職員の確保や職員の定着が多くの事業所で進んでいない現状を反映しています。
- サービス提供職員欠員時の減算(令和6年度新設):
- 居住系・日中活動系サービスでは減算対象となる事業所数が少なく、多くが基準をクリアしていると見られます。
- 考察: 減算基準はクリアしているものの、前回の経営概況調査で収支が悪化していることから、最低限の人員は維持できているが、収益を圧迫している状況が考えられます。
2. 重度障害者の受入に関する動向
重度者への支援を評価する加算は、比較的算定率が高く、事業所が重度者支援に積極的に取り組んでいることがわかります。
- 強度行動障害支援体制加算(新設):共同生活援助(GH)では算定率が83.1%。
- 重度者支援に係る個別支援計画の策定(新設):療養介護で90.9%、GHで**96.0%**が策定しており、高い意識が確認されます。
3. 就労継続支援B型の動向(人員配置区分の見直し)
令和6年度改定で新設された人員配置区分「6:1」への移行が急速に進んでいます。
- 「6:1」への移行: 改定前の「7.5:1」だった事業所の8割以上が、改定後に「6:1」に移行しました。
- 考察: 報酬単価の高い「6:1」への移行は、経営状況の悪化を踏まえ、事業所が収益改善のために人員配置を手厚くするインセンティブに積極的に反応した結果と見られます。この結果は、障害福祉分野の事業所が報酬体系(インセンティブ)に敏感であり、報酬改定がサービス提供体制を大きく変え得ることを示しています。
📌 総合コメント
資料は、経営概況調査で示された「収支の悪化」と「人件費の増加」という経営の厳しさに対し、事業所が報酬改定を契機としてどのように対応しているかを示しています。
- インセンティブへの鋭敏な反応(就労B型): 就労継続支援B型で報酬の高い「6:1」配置に事業所が大量に移行したことは、報酬体系の設計がサービス提供の質や体制を大きく左右することを証明しています。しかし、この移行が職員の給与改善や定着にどれだけ結びついたか、また生産性を伴っているかは、今後の検証が必要です。
- 専門職員の確保は依然として課題(福祉専門職員配置等加算): 重度者支援や個別支援計画策定といった、法令順守や喫緊のニーズに対応する加算は高い算定率を示す一方で、専門職員の配置を評価する加算の算定率が低いことは深刻な課題です。これは、報酬改定による賃上げ財源が確保されたとしても、専門性を持つ人材そのものを市場で確保できていない構造的な問題が存在することを示しています。
- 持続可能な経営と質の向上: 経営概況調査の結果と合わせると、多くの事業所が収益を確保するために、ギリギリの経営努力を行っている状況がわかります。今後の報酬改定では、単なるコスト補填だけでなく、専門人材を育成・定着させるための長期的なインセンティブや、生産性向上に資するテクノロジー導入への支援を強化し、経営の安定化とサービスの質の向上が両立する仕組みが求められます。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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