介護現場の生産性向上は本当に進んだのか?― 厚労省調査から見える“制度と現場の現在地” ―
導入
令和8年2月18日、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会において
「介護現場における生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくりに資する調査研究事業」の結果が公表されました。
令和6年度介護報酬改定で創設・見直しが行われた
生産性向上推進体制加算。
その効果はどうだったのか。
テクノロジー導入は本当に現場を変えたのか。
本記事では、公開されたい資料とデータを整理しながら、
制度と現場の“現在地”を確認します。
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■ テクノロジー導入は確実に進んでいる
特別養護老人ホームでは約9割、
介護老人保健施設では約8割が
何らかの介護テクノロジーを導入済みと回答しています。
記録ソフトの導入率は、
令和4年度から大幅に増加。
数字だけを見ると、
DXは着実に進展しています。
ここまでは、政策は成功しているように見えます。
■ しかし、加算Ⅰは伸びていない
一方で、生産性向上推進体制加算の算定率を見ると、
加算Ⅰ:最高でも1桁台
加算Ⅱ:老健で3割超
という結果です。
特にⅠの伸び悩みが顕著です。
その理由として挙げられているのは、
・見守り機器の全床導入の困難さ
・インカム等の全職員導入
・報告負担の重さ
制度設計は整っている。
しかし、現場での「全面実装」は容易ではありません。
■ 残業時間は確かに減っている
加算算定事業所では、
月平均残業時間が一般調査より低いという結果が出ています。
制度の効果は一定程度確認できます。
ここは評価すべき点です。
ただし――
これは「導入できた法人」の結果です。
■ 導入しない理由の本音
テクノロジー未導入理由の1位は
「導入費用が負担」。
しかし、補助金を申請していない事業所が多数。
その理由の最多は
「導入したいテクノロジーがない」。
これは重要です。
単なる資金不足ではなく、
必要性が腹落ちしていない可能性がある。
■ 委員会は設置された。しかし機能しているか
委員会設置率は6割超。
しかし、
業務負担を理由に設置していない法人も少なくありません。
さらに注目すべきは、
効果を感じていない法人も一定数存在することです。
「設置」と「機能」は違う。
ここが今回の調査の核心です。
■ 現場で見えていること
私の顧問先でも、見守り機器やインカム導入は進んでいます。
しかし、
導入しただけで業務が変わるわけではありません。
実際に成果が出ている法人には共通点があります。
・導入後に効果測定をしている
・委員会が単なる報告会で終わらない
・役割分担を再設計している
つまり、
機械ではなく、組織を変えているのです。
逆に、
・補助金を使って導入
・報告書は提出
・運用は従来通り
という場合、効果は限定的です。
■ 介護助手という示唆
調査では、介護助手の活用が
身体的負担軽減に高い効果を示しています。
これは非常に示唆的です。
テクノロジー以前に、
業務分担の再設計という選択肢がある。
DXとは、
必ずしもデジタルだけではありません。
■ まとめ ― 問われているのは経営判断
今回の調査から見えるのは、
制度は整った
機器も普及した
効果も一部確認された
しかし、
本当に変わった法人と、
変わらなかった法人がある。
その差は、
「導入したかどうか」ではなく
**「どう使うかを考えたかどうか」**です。
生産性向上は、
テクノロジー政策ではありません。
経営戦略です。
次回は、
なぜトップダウンだけでは介護DXが成功しないのか、
構造的に考察します。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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