はじめに
就労継続支援A型・B型、就労移行支援などの事業では、「福祉事業活動」と「生産活動」を区分して会計を行うことが求められています。
この「就労支援事業会計」は、利用者への工賃支給や事業の経営管理に直結する大切な仕組みです。
ここでは、厚生労働省が定める会計処理基準と運用ガイドラインをもとに、その概要と位置づけを整理しています。
1.なぜ就労会計が必要なのか
- 就労支援事業では、福祉的支援と生産的活動が一体となって運営されています。
- しかし、その収支を混在させたままでは、利用者への賃金・工賃や法人の経営実態を正しく把握できません。
- この課題を解消するために、「就労支援事業会計処理基準」およびその運用方法を示した「運用ガイドライン」が整備されました。
目的は3つ。
1️⃣ 会計処理の統一と透明性の確保
2️⃣ 経営改善や指導の適正化
3️⃣ 利用者への公正な工賃配分の実現
2.就労会計の基本構造
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 福祉事業活動 | 自立支援給付費・寄附金など、支援に関する収入と費用 |
| 生産活動 | 製品販売・受託作業など、働く場の経済活動に関する収支 |
👉 福祉事業活動=「支援のための経費」
👉 生産活動=「利用者と共に働くための経費」
同一事業所で複数の作業種別(例:パン製造・清掃作業など)を行う場合は、それぞれの収支を個別に把握することが求められています。
3.就労会計の4つの柱
就労会計を理解するには、次の4つの資料を押さえるのが基本です。
| 項目 | 内容の概要 | 関連ページ |
|---|---|---|
| 就労支援の事業の会計処理の基準 | 会計処理のルールや勘定科目の扱い方を定めたもの | 就労会計の会計基準 |
| 「就労支援の事業の会計処理の基準」の改正に係る留意事項等の説明 | 実務で迷いやすい点・誤りやすい処理の整理 | 就労会計の留意事項 |
| 「就労支援事業の会計処理の基準」に関するQ&Aについて | よくある質問と判断のポイント | 就労会計 Q&A |
| 就労支援事業会計の運用ガイドライン | 厚生労働省がまとめた詳細な運用指針 | 就労会計の運用ガイドライン |
4.会計と経営のつながり
就労支援事業会計は、単なる記録作業ではなく、「利用者の収入」と「法人経営の安定」を両立させる仕組みです。
- 会計データを整理することで、事業所の採算や原価構造が明確になります。
- 生産活動の黒字・赤字の把握は、指定権者の指導や評価にも関わります。
- 適正な処理を積み重ねることが、工賃水準の向上・経営の信頼性確保につながります。
5.はじめて担当する方へ
就労会計は、福祉と会計の両方の視点が必要な領域です。
「数字の整理」と「支援の理解」を行き来しながら、事業の目的を見失わないことが大切です。
このシリーズでは、実務担当者・管理者・監査人の方々が同じ目線で理解できるよう、制度と現場の橋渡しをめざしています。
6.次に読むおすすめページ
▶ 就労支援事業会計の運用ガイドライン(準備中)
厚労省の公式整理をもとに、実務上のポイントを要約。
▶ 会計基準の留意事項
現場で迷いやすいケースと対処法を整理。
20年間の社会福祉法人・福祉事業者の支援と、11年間の地方公務員の行政事務で培ったノウハウを 書籍・動画・規程 として公開しています。
ご自身で学び、法人内で活かせるコンテンツをご用意していますので、ぜひご覧ください。
よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
地方公務員としての経験と公認会計士としての知識を活かして、社会福祉法人の法人運営の支援を行ってきたことにより、独特の実務経験を有する。