社会福祉法人の予算流用について 社会福祉法人会計専門 公認会計士・税理士
この記事では、社会福祉法人が予算流用を行う際の手続きについて、社会福祉法人会計基準やモデル経理規程に基づき、予算流用の基礎・ルール・手続き をやさしく整理してお伝えします。
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質問の内容
| 社会福祉法人の予算流用の手続きについて教えてください。 |
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🎀 はじめに:予算流用とは?
社会福祉法人では、年度当初に理事会で承認された「資金収支予算書」に基づいて事業が進みます。
しかし実務では、
- 予定外の支出が発生した
- ある科目が足りない
- 別の科目に余裕がある
……ということはよくあります。
こうしたとき、
予算の一部を別の勘定科目に移して使えるようにする仕組みが「予算流用」です。
1.予算流用の根拠(経理規程)
予算流用は、法人の「経理規程」で認められる手続です。
モデル経理規程では、次のように定められています。
第18条(勘定科目間の流用)
予算管理責任者は、予算の執行上必要があると認めた場合、
理事長の承認を得て、同一拠点区分内の中区分の勘定科目相互間で予算を流用できる。
ポイントは次の3つです。
- ① 予算管理責任者が判断する
- ② 理事長承認が必要
- ③ 同一拠点内・中区分科目の範囲でのみ流用可
2.予算流用が必要になる場面
モデル経理規程では、
「予算の執行上必要がある場合」 に流用ができます。
具体例としては、
- 物価高騰で光熱費が当初予算を上回った
- 修繕を急ぐ必要が生じ、科目が足りない
- 行事費を増やす必要が出た
- 必要備品が増え、消耗品費が不足した
など、当初・補正予算を超えて支出が必要な場合です。
3.予算管理責任者とは?
予算流用を判断するのが「予算管理責任者」です。
モデル経理規程では次のように規定されています。
第17条(予算管理責任者)
理事長は、拠点ごとに予算管理責任者を任命する。
※多くの法人では「会計責任者」が予算管理責任者を兼任。
つまり、日頃の経理・執行状況を把握している担当者が、
「この科目は足りない」「別科目に余裕がある」
という判断を行います。
4.予算流用できる範囲(とできない範囲)
予算流用は“どこでも自由にできる”わけではありません。
原則は次のとおりです。
✔ 同一拠点内に限る
社会福祉法人では、予算管理の基本単位は「拠点」です。
そのため、基本的には
👉 同じ拠点内で科目間のやりくりを行う
ことになります。
2 予算と経理
出典:厚生労働省通知「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」より
(1)法人は、事業計画をもとに資金収支予算書を作成するものとし、資金収支予算書は拠点区分ごとに収入支出予算を編成することとする。
また、資金収支予算書の勘定科目は、資金収支計算書の勘定科目に準拠することとする。
✔ 中区分科目どうしでのみ流用できる
資金収支計算書の科目には “大区分・中区分” があります。
- 中区分 ←→ 中区分 はOK
- 大区分をまたぐ流用は不可(=補正予算が必要)
(例)
| NO | 流用元 | 流用先 | 可否 |
|---|---|---|---|
| ① | 職員給料支出(大区分:人件費) | 給食費支出(大区分:事業費) | × 大区分が違う |
| ② | 教養娯楽費支出(事業費) | 給食費支出(事業費) | ○ 中区分内 |
5.予算流用の手続き
予算流用の流れは次のとおりです。
① 予算管理責任者が必要性を判断する
- 当初予算・補正予算を超える支出が必要か
- 代替できる科目に余裕があるか
を確認します。
② 理事長に承認を求める
経理規程の規定により、
👉 必ず理事長承認(決裁)が必要
です。
稟議書・起案書など、法人の書式でOKです。
③ 予算書の更新(補正予算が不要な場合)
流用のみで対応する場合は、
- 流用前
- 流用後
の科目残額を内部で整理しておきます。
(監査で必ず確認されます)
④ 大区分をまたぐ場合は補正予算
大区分が変わると
→ 必ず理事会承認(※)の補正予算が必要
となります。
※定款で予算の承認について評議員会の決議としている場合には、評議員会
6.予算流用の様式について
予算流用の書類様式は法人の任意です。
厚労省パブリックコメントでも次のように示されています。
資金収支予算書は、勘定科目が資金収支計算書に準拠していれば
様式は法人の任意 とする。
多くの法人では、
- 「補正予算書に準じた書式」
- 「内部決裁用の流用申請書」
などを使っています。
(問)予算書の様式を規定すべきではないか。
(回答)資金収支予算書は勘定科目が資金収支計算書の勘定科目に準拠していれば、様式は法人の任意といたします。
出典:「平成23年7月27日付 厚生労働省 社会福祉法人会計基準(案)に関する意見募集手続き(パブリックコメント)の結果について」より
7.まとめ:予算流用は“適切な統制”が大事
予算流用は、現場に柔軟性を与える便利な制度ですが、
次の点を押さえると適切に運用できます。
- 予算流用はあくまで“中区分内・同一拠点内”
- 大区分を超える場合は必ず補正予算
- 理事長承認を必ず得る
- 流用の記録を残す(監査で重要)
- 規程に沿った運用を徹底する
8.ご相談ください
予算流用は、法人ごとに規程の書き方や予算区分が異なるため、
「どこまで流用して良いか?」
「このケースは補正予算が必要?」
と悩まれることが多いテーマです。
- 経理規程の見直し
- 予算書の整理
- 流用ルールの統一
- 職員向け説明資料の作成
など、お気軽にご相談ください。
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モデル経理規程を基に経理規程の確認
社会福祉法人の経理規程の中には、予算流用についての条文があります。確認してみましょう。
モデル経理規程
モデル経理規程第18条に予算流用についての条文があります。
(勘定科目間の流用)
第18条 予算管理責任者は、予算の執行上必要があると認めた場合には、理事長の承認を得て、拠点区分内における中区分の勘定科目相互間において予算を流用することができる。(注16)(注16)
平成29年版 社会福祉法人モデル経理規程 全国社会福祉法人経営者協議会
勘定科目間の流用とは、ある勘定科目について当初与えられた予算枠を超えて事業を執行するときに、他の勘定科目から予算枠を充当することをいう。
勘定科目間流用を無制限に認めると、予算統制の意義が損なわれることになるため、本経理規程においては、同一拠点区分内における中区分の勘定科目相互間における流用を原則として定めている。
(予算管理責任者)
第17条 予算の編成並びに予算の執行及び管理について理事長を補佐するため、理事長は、予算管理の単位ごとに予算管理責任者を任命する。(2は、会計責任者が予算管理者を兼ねている場合の例)
平成29年版 社会福祉法人モデル経理規程 全国社会福祉法人経営者協議会
2 当法人の予算管理責任者は会計責任者とする。
社会福祉法人の経理規程では、モデル経理規程に準じて規定されている法人が多いでしょう。
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著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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