福祉の現場の5Sとは。人材確保や職員の人手不足解消と職員の身体的・精神的負担軽減に向けて、介護・障がい福祉・保育の分野別5Sを比較・検討。
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質問の内容
| 研修会で5Sを知りました。5Sの考え方や福祉の現場の5Sについて分かりやすく教えてください。 |
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5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は、ムダをなくし、安全・効率・品質を同時に高める現場改善のフレームワーク。 製造業で磨かれた知恵は、いまや介護・障がい福祉・保育の現場でも「ケアの質」と「働きやすさ」を底上げします。この記事では、5Sの誕生から福祉現場への適用、導入効果までを一気にまとめます。
福祉の現場が抱えている課題
福祉の現場が抱えている課題として、良く挙げられるのが「人手不足と職員の身体的・精神的負担」です。
そのため、処遇改善を始めとした様々な取組みやICTの導入が進められています。
ただし、これらの取組みは、コスト、法人の金銭的な負担も大きくなり、悩ましいところがあります。
そこで、大きくコストをかけずに、「職員の身体的・精神的負担」を軽減できる方法として考えられるものが、「5S」の取組みです。
5Sに取り組み、職員の身体的・精神的負担を軽減させることができれば、職員の定着にも繋がり、人材不足の課題解消にも効果を発揮することが期待できます。
1. 5Sはどこから来た? ─ 誕生と思想
5Sは戦後の日本で進化した生産管理手法、とくにトヨタ生産方式(TPS)の文脈で確立されました。焦点は「製品価値を高めないムダの徹底排除」。具体的には、探すムダ/手待ちのムダ/不良を作るムダなどを現場の物理的改善で潰していく思想です。
- 整理:不要品を処分して空間を確保
- 整頓:必要なものを必要なときに誰でも取り出せるように
- 清掃:汚れを落としながら異常を点検
- 清潔:良い状態を標準化して維持
- しつけ:ルール順守を習慣化し文化にする
─ 上記5要素の定義と目的の整理は後章の表を参照。
2. サービス業・福祉への転換
製造業で効果が実証された5Sは、病院・オフィス・介護・福祉・保育へと適用領域を拡大しました。目的は「不良ゼロの製品」から、「ヒューマンエラーの少ない安全なサービス」へと置き換わります。結果として、探す時間の削減や点検による早期発見が、ケアの質とスタッフの負担軽減に直結します。
製造の「品質」は、福祉では「サービスの質と安全」へ。
── 目的は変わっても、「ムダをなくす」という本質は同じ。
3. 5Sの一般的な定義と目的(要約表)
| 項目 | 意味 | 一般的な目的 |
|---|---|---|
| 整理 (Seiri) | 要る・要らないを区別し、要らないものを処分 | 空間の確保・ムダの排除 |
| 整頓 (Seiton) | 要るものを、必要時に誰もがすぐ取り出せる状態へ | 作業効率向上・探す時間の削減 |
| 清掃 (Seisou) | 汚れをなくし、同時に設備・環境を点検 | 品質の安定・異常の早期発見 |
| 清潔 (Seiketsu) | 整理・整頓・清掃の維持と標準化 | 衛生管理・士気向上 |
| しつけ (Shitsuke) | ルールや手順の遵守を習慣化 | ルールの定着・意識の向上 |
5Sのイメージ

4. 現場別(介護/障がい福祉/保育園)の重点と目的
対象者の特性により、何をムダとみなし、何を最重要とするかが変わります。以下は重点比較です。す。
| 項目 | 介護(高齢者) | 障がい福祉 | 保育園(子ども) |
|---|---|---|---|
| 最重要目的 | 安全確保・身体/精神負担の軽減 | 個別支援の質・自立支援・混乱防止 | 発達と安全・感染症予防 |
| 整理 | 転倒原因の排除・段差対策 | 刺激・混乱を招く物の排除 | 誤飲・怪我リスク物の排除 |
| 整頓 | 緊急用品・介助用具へ即アクセス | 自分でできる配置(色分け・ピクト) | 自分で片付けやすい定位置とラベル |
| 清掃 | 設備の緩み/破損点検・動線見直し | 角の破損等の早期発見・自傷予防 | おもちゃ等の衛生点検・消毒徹底 |
| 清潔 | 衛生標準化・不快要素の排除 | アレルギー/服薬等の厳格標準化 | 子どもが触れる全域で高い衛生維持 |
| しつけ | 持ち上げないケア等の安全ルール | 個別支援計画の遵守・共有ルール | 安全ルールと声かけの統一 |
4-1. 介護での実践例(抜粋)
- 整理:廊下や居室の私物・予備車いすの一時保管ルール/期限切れ衛生材料の定期廃棄/共有物品の私物化防止
- 整頓:AEDや救急箱の配置図掲示/高頻度物品は最短動線に配置/介助用具の定位置管理(床マーク)
- 清掃:重点清掃エリアの設定(トイレ・調理場など)とチェックリスト/清掃時点検(キャスター・手すり・浴室タイル)
- 清潔:清潔レベルの標準化と記録/床直置き禁止など明文化
- しつけ:「介護安全5分ミーティング」/成果の見える化(残業〇分減・笑顔が増えた)/表彰制度
4-2. 障がい福祉での実践例(抜粋)
- 整理:感覚過敏に配慮した刺激物の排除/避難経路の確保/個人情報物の施錠保管
- 整頓:利用者の目線・可及範囲で定位置化/教材・ツールの分類と即時利用可/医療・衛生用品の区分管理
- 清掃:破損箇所(角・小部品・窓)の重点点検/感覚的な不快要因の除去
- 清潔:手洗い・消毒・調理器具洗浄の標準化/アレルゲン分離と二次汚染防止
- しつけ:個別支援計画の読み合わせ/「支援のムダ探し」ミーティング/環境変化=利用者変化の気づき訓練
4-3. 保育園での実践例(抜粋)
- 整理:破損おもちゃ・過去制作物の計画廃棄/年齢不適合物の区分保管/掲示物の厳選
- 整頓:棚は子どもの手の届く高さ/写真ラベルで「戻す場所」を明確化/救急箱や薬は最短アクセス+施錠管理
- 清掃:手洗い場・ロッカー裏・おもちゃ箱底の重点清掃/床のささくれ・ネジ緩み等の点検
- 清潔:午睡後寝具や手洗い手順の統一/衣類・持ち物の清潔区分
- しつけ:KYミーティング/片付けの声かけルール統一/サンキューカード等で連携促進
5. 導入による主な効果
5-1. 製造業の効果
- 品質向上:異物混入や不良率が低下、クレーム減・歩留まり向上
- 生産性向上:探す時間ゼロ・標準作業で時間短縮、納期短縮・残業削減
- コスト削減:在庫圧縮・故障減による修理費抑制、利益率向上
- 安全確保:転倒や機械事故の予防
5-2. 福祉・保育の効果
- 安全性向上:転倒・誤飲・誤薬等の事故やヒヤリハットが減る
- サービスの質の安定:定位置化・記録標準化でヒューマンエラー減少、満足度向上
- 職員の負担軽減:探す/待つムダが減り、残業減・定着率向上
- 心理的環境の改善:きれいで公平なルール運用が士気を高める
5-3. 最大の共通効果:「気づく力」が育つ
5Sの真価は清掃=点検=改善の好循環で、現場の異常やムダに「自分たちで気づく力」を育てること。高額ICTに頼らずとも、現場の小さなアイデアで継続改善が回り続ける「自律的な組織文化」をつくります。
6. はじめ方:今日からできるミニ・チェック
- 5分整理:通路と出入口の「今いらない物」を一時保管へ移動(毎日実施)。
- 定位置の1箇所設定:救急箱や高頻度物品の置き場をマークし、全員に周知。
- 清掃しながら点検:手すり・キャスター・角・おもちゃの破損を日々チェック。
- 清潔の標準化:手洗い・消毒の手順書を1枚にまとめ掲示。
- しつけ=習慣化:朝礼/申送りで「今日の5S目標」を1つ共有。
まとめ
5Sは、単なる「片付け」ではなく、安全・効率・品質を底上げし、人を育てる文化をつくる活動です。介護・障がい福祉・保育の各現場に合わせて焦点を調整しながら、小さく始めて、続けて、標準化する──これが定着の近道です。
次の展開(お知らせ)
本記事をベースに、全6章の有料動画を制作予定です。
「5Sの誕生と思想」→「福祉への転換」→「基本5要素」→「現場別実践」→「導入効果」→「定着のコツ」まで、現場導入に直結する事例・シート類も解説します。配信準備が整い次第、こちらのページからご案内します。
20年間の社会福祉法人・福祉事業者の支援と、11年間の地方公務員の行政事務で培ったノウハウを 書籍・動画・規程 として公開しています。
ご自身で学び、法人内で活かせるコンテンツをご用意していますので、ぜひご覧ください。

よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
地方公務員としての経験と公認会計士としての知識を活かして、社会福祉法人の法人運営の支援を行ってきたことにより、独特の実務経験を有する。

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松岡 洋史
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地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
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