⑤規制緩和で感じた思い 1から学べる社会福祉法人会計勉強会の資料ができるまで
1から学べる社会福祉法人勉強会の資料や書籍は、本質を伝えることを目的にしています。本質を伝えるために資料や文章へのこだわりについてお伝えしていきます。今回は公営企業と社会福祉法人についてです。
社会福祉法人と公営企業
社会福祉法人の福祉サービスに関連する規制緩和
福祉サービスの規制緩和の中でも社会福祉法人の運営に大きな影響があったものとして
- 介護保険制度の開始と介護保険サービスへの民間企業の参入
- 障害者自立支援法(障害者総合支援法)の施行と障害者サービスへの民間企業の参入
- 2000年から解禁された保育市場への民間企業の参入と2015年からの「子ども・子育て支援制度」の始まり
を挙げる方も多いと思います。
2000年以降、これまで社会福祉法人が担ってきた福祉サービスへの民間企業の参入が可能になりました。
日々、社会福祉法人さんの会計を見ていく中で、福祉サービスにおける規制緩和は、財務面でも大きな影響を与えているのではないかと感じています。
役所時代に所属していた公営企業
私が、役所時代に所属していたのは、市の公営企業の部署でした。
新卒で配属になった時には、公務員の仕事として一般的な役所のイメージしか持っていなかったので、公営企業の特性を理解することに時間がかかりました。
公営企業とは、市営交通や上下水道、市立病院といった部門になります。
公営企業と社会福祉法人が似ていると思うところ①位置づけ
公営企業は、自治体が運営していることから、高い公共性や公益性が求められている事業です。
通常の自治体の会計(一般会計と言います)との大きな違いとして、公営企業では、事業の採算性も求められることになります。
公営企業では、高い公共性や公益性を維持しながらも、独立採算性も求められるという、ある意味、相反するような2つの要請の両立を図っていく必要があります。
この特性から、公営企業は、自治体の公の事業でありながら、民間企業と同じように採算性が求められている、いわば、自治体と民間企業の中間に位置していると言えるのではと思っています。
ここで、社会福祉法人について、確認してみます。
社会福祉法人の歴史的な成立ちとして、憲法83条の定めの中で、民間の福祉事業者へ公金の支出を可能とする目的で、昭和26年に社会福祉事業法(社会福祉法)により特別な法人格として制度化されました。
そして、社会福祉法人には高い公益性が求められて、行政による監督が行われています。
社会福祉法人は、民間の団体でありながら行政と同じような高い公益性が求められる、いわば、民間企業と自治体の中間に位置していると言えそうです。
私は、自治体と民間企業の中間に位置するという点で、公営企業と社会福祉法人はとても似ているのではと思いました。
公営企業と社会福祉法人が似ていると思うところ②価格の決定
公営企業と社会福祉法人が似ていると感じるところに、価格の決定があります。
自治体の一般会計では、税収を財源として公共事業が行われるのに対して、公営企業では、受益者負担の考え方の下で、サービスの提供を受ける方々から料金を受領しながら、事業が行われます。
料金とは、バス代や地下鉄代、水道料金や病院の診察費といったものです。
この料金の基礎になる価格は、公定価格という性質があります。
公営企業では、事業者が価格を自由に決めることができるものは少なく、価格を決定するためには国の認可が必要です。
ここで、社会福祉法人の収入の基礎になる価格を考えてみましょう。
社会福祉法人の収入の多くも、公定価格といわれる性質のものであることが分かります。
介護報酬や障害サービス等報酬、保育事業の施設型給付や委託費の基になる「公定価格」など、行政で定めた価格を基に料金が決まってきます。補助事業や受託事業の多くも行政側で価格が決められることが多いでしょう。
公営企業と社会福祉法人が似ていると思うところ③利用者数と採算性
また、利用者数についても似ているところがあります。
公営企業では、事業の性質上、利用者の数を大きく増やすことも容易ではありません。
社会福祉法人も定員等により、利用者数を大きく増やすことに限界があります。
公営企業では、価格決定における自由裁量権が乏しく、また利用者数を増やすことが容易でない中で、採算を維持していく必要があります。
赤字が続けば、厳しい指摘を受けることになります。
社会福祉法人も、価格決定における自由裁量権は乏しく、利用者数についても容易に増やすことができない中で、経営基盤を維持していかなければなりません。
私が公営企業で感じていたのは、下のようなものです。
・不採算の分野について撤退することは、公共性や公益性の観点からは望ましいものではありません。
・地域への責任として、赤字だから辞めますという訳にはいかないものがあります。
・地域社会に対する公共性、公益性の維持と、採算性の確保という要請のどちらも放棄することができないものだとの思いの中で過ごしていました。
社会福祉法人の理事長とお話をした時に、
「採算が合わなくても、法人の責任としてやり続けないといけないことがある」
との言葉を聞いた時に、私が公営企業で抱いていた思いを思い出しました。
規制緩和と民営化
規制緩和が始まる
1990年以降、公営企業に、規制緩和と民営化という大きな波が訪れてきました。
事業を行う上での様々な規制が緩和されて、民間企業の参入が容易になってきました。
規制緩和には、市場原理の導入、市場原理に基づく競争が行われていなかったことに対する指摘もありました。
規制緩和が行われることにより、価格の弾力性が高まり、民間企業の質の高いサービスが提供されることは、利用者の方々にとっては大きなプラスと言えるでしょう。
私自身、規制緩和に対して、大きな脅威を想像した記憶があります。
規制緩和の当初に、事業への参入を表明するのは、大きな企業でした。
経営のノウハウも豊富で、サービスの質も高いとの評判があり、かつ資金を潤沢に持っている、そんな企業が参入してくると耳にすると、脅威を感じざるを得ません。
また、参入するとなると、事業の中でも採算性の高い分野への進出が予想されます。
事業の中でも比較的採算性の高いところで、経営に優れた企業との競合の話は、
「これからどうなっていくんだろう」「公営企業はなくなってしまうのだろうか」と想像させられるものでした。
規制緩和のその後
規制緩和から約30年が経過しました。
公営企業では厳しい経営環境もありますが、今でも、公共性と公益性を維持しながら、事業運営が行われています。
社会福祉法人の外部環境においても、非常に規模の大きな企業が社会福祉の分野に進出しています。
大きな企業や多様な事業者さんと共存しながら、地域の福祉を担っていかれることになります。
以上のようなことから、社会福祉法人の運営を担っている管理職のみなさんに、会計をお伝えしていく中で、公営企業での経験や、抱いた思いの中に参考になることがないものか考えるようになりました。
私が作成する資料に、少しでも活かせればと思っています。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
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第8巻 | 管理職のための 社会福祉法人会計基準の逐条解説 | 83 | 1980円 |
第9巻 | 利益と増減差額 ~その違いからわかること~ | 47 | 1815円 |
(第4巻 経営組織は、法人の理事・監事や評議員について解説しています)
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