社会福祉法人での生命保険の加入について 社会福祉法人会計専門 公認会計士・税理士
この記事では、社会福祉法人が生命保険を加入する時の注意点や問題点について、社会福祉法人会計基準の考え方を整理しながら、社会福祉法人側・保険会社側の双方が正しく判断するためのポイントをまとめています。
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質問の内容
| 法人で役員や職員の生命保険に加入することはできるでしょうか。また、加入する場合の注意点があれば教えてください。 |
ご注意
掲載している内容は、マツオカ会計事務所の顧問先の社会福祉法人様に向けた内容になっています。
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1.はじめに
社会福祉法人さんからよくいただく相談のひとつが、
「役員や職員を対象に生命保険へ加入して良いのか?」
「指導監査で指摘されないためには、どこに注意すれば良いのか?」
という内容です。
近年は生命保険会社・代理店の皆様からも、
「社会福祉法人向けに正しく提案するためのポイントを知りたい」
というお問い合わせが増えています。
しかし、社会福祉法人は
介護・障害福祉・保育など、事業の種類ごとに制度や通知が異なるため、
一般の企業や医療法人と同じ感覚で保険提案をすると、
指導監査で指摘を受ける可能性があります。
2.社会福祉法人会計基準における保険料の取り扱い
社会福祉法人会計基準では、「保険料」の科目に次のような説明があります。
- 事務費の「保険料」には 生命保険料が含まれる
- ただし、福利厚生費に該当するものを除く
(※参考:福利厚生費は、役員・職員の福利厚生のための支出を計上)
この説明から読み取れるのは、
✔ 生命保険の加入そのものは「想定されている」
✔ ただし 福利厚生目的かどうかで科目が変わる
✔ さらに“法令・通知で認められる範囲”であることが前提
という点です。
3.生命保険加入が安易に認められない理由
社会福祉法人では、生命保険加入に関して次の理由から
「無条件にOK」とはなりません。
① 法人の運営する事業によって規制が違う
- 介護保険事業
- 障害福祉サービス
- 認可保育所
など、共通する通知もあれば、制度ごとに異なる通知があります。
同じ社会福祉法人でも、
「A法人では加入できたが、B法人では指導監査で指摘を受けた」
というケースが実際に存在します。
② 法人の運営が“公的性”を持つため
社会福祉法人の収入の中心は公費です。
- 介護給付費
- 自立支援費給付費
- (認可保育所の)委託費
- 補助金など
社会福祉法人は収入の多くを公費が占め、高い公益性が求められる法人であるため、
役員や職員個人のための支出が厳しくチェックされる構造があります。
③ 監査で生命保険加入が指摘されるケースがある
当事務所にも、
「生命保険の加入について指導監査で指摘された」
という相談が実際に寄せられています。
指摘の内容は、
- 加入目的の不明確さ(役員を加入対象とする場合は特に)
- 福利厚生として妥当か
- 法令・通知に反する加入状況
など、多岐にわたります。
4.社会福祉法人側が注意すべきポイント
生命保険の加入には、次の点を必ず確認する必要があります。
✔ 加入目的は明確か
- 福利厚生目的
- 退職金制度または退職金の原資とするため
- 管理者不在リスクの軽減
など、目的が曖昧だと監査で説明できません。
✔ 自法人に適用される通知・制度は何か
介護・障害・保育など、
自法人に適用される制度や通知がどれかで手続きが変わります。
✔ 他法人の事例は当てにならない
「近くの法人も加入しているから大丈夫」
という判断は大変危険です。
✔ 必要な手続きの漏れがないか
- 理事会承認
- 規程整備
- 福利厚生規程の適否
- 会計処理の整合性
いずれも、法人の運営形態により考え方が異なります。
✔ 判断に迷う場合には、事前に所轄庁に相談を
生命保険の加入に問題がないか、判断に迷う場合には、事前に所轄庁に相談し、指示を仰ぐことが大切です。
5.生命保険を提案する側(保険会社・代理店)の注意点
保険会社・代理店の皆様から見落とされがちな点を整理します。
✔ 社会福祉法人を一律に扱わない
社会福祉法人は「全て同じ制度」ではありません。
事業内容・通知・指導監査の指摘内容(指摘の趣旨)が異なるため、
法人間で生命保険加入の可否が変わります。
✔ 「加入できた=将来も安全」ではない
現時点で加入できても、
数年後の指導監査で問題になるケースが実際にあります。
✔ 公的性の高い法人への提案であることを理解する
営利企業向けと同じ提案は通用しません。
法人の制度理解が不可欠です。
✔ 専門家(社会福祉法人会計に詳しい事務所)との連携が重要
個別法人の制度判断を正しく行うためには、
制度と実務の両方を把握している専門家との連携が必要です。
6.当事務所に相談いただけるメリット
当事務所は、
社会福祉法人会計専門として20年以上、
多数の法人の指導監査・会計・制度対応を支援してきました。
だからこそ、以下のようなご支援が可能です。
✔ 法人ごとの制度(介護・障害・保育)の違いを踏まえた判断
✔ 生命保険加入の可否を“指導監査で説明できる形”で整理
✔ 過去の監査指摘事例に基づくリスクの事前確認
✔ 提案側(保険会社)の皆様向けの制度解説・研修も対応
✔ 生命保険×社会福祉法人 会計処理の整合性チェック
社会福祉法人と保険会社の双方にとって、
「正しく加入して、監査でも説明できる」体制を整えることができます。
7.まとめ
社会福祉法人の生命保険加入は、
企業・医療法人よりも判断が複雑で、
かつ監査リスクが高い分野です。
✔ 生命保険加入は“制度を正しく踏まえた場合のみ可能”
✔ 介護・障害・保育など、事業ごとに通知が異なる
✔ 他法人の事例は参考にならない
✔ 保険会社側も専門知識が必要
✔ 専門家との連携が不可欠
安全に加入するためにも、
まずは制度の正確な理解から始めましょう。
8.ご相談ください
生命保険加入に関する判断は、法人ごとに異なります。
- 加入の可否判断
- 必要となる規程の確認と整備
- 理事会説明資料の作成
- 保険会社向け研修(ご依頼が多く、オンライン開催のみ)
- 経理処理(保険料・福利厚生費の扱い)
など、個別の状況に合わせた支援が可能です。
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▶ 社会福祉法人の生命保険の経理処理の記事はこちら
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(参考)社会福祉法人会計基準の勘定科目の説明
社会福祉法人会計基準に示されている勘定科目の説明を確認してみましょう。
保険料(事業活動計算書)の科目説明
事業活動計算の科目として、事業費と事務費に「保険料」が示されています。
厚生労働省の科目説明では、下のように記載されています。
| 大区分 | 事業費 | 事務費 | 事務費 |
|---|---|---|---|
| 中区分 | 保険料 | 保険料 | 福利厚生費 |
| 科目説明 | 利用者に対する損害保険料等をいう。 | 生命保険料及び建物、車輌運搬具、器具及び備品等にかかる損害保険契約に基づく保険料をいう。 ただし、福利厚生費に該当するものを除く。 | 役員・職員が福利施設を利用する場合における事業主負担額、健康診断その他福利厚生のために要する法定外福利費をいう。 |
上記の説明から、福利厚生を目的とした保険は、福利厚生費(全額損金経理を行うことができる保険契約の場合)となります。
科目説明からの考察
| NO. | ポイント |
|---|---|
| ① | 「生命保険」と例示がされている。 |
| ② | 「ただし、福利厚生費に該当するものを除く。」の記載から、福利厚生目的の生命保険の加入も想定されていると考えることができる。 (勘定科目説明では、福利厚生目的での保険の加入は、「保険料」ではなく「福利厚生費」に計上すると読むことができます。) |
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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