はじめに
社会福祉法人の監事は、
業務監査と会計監査を担う独立性の高い役員です。
監事の選任手続きは、
理事とは異なり 「在任中の監事の過半数の同意」 が必要であるなど、
特有のステップがあります。
また、選任手続きの適否は、
- 指導監査
- 所轄庁の認可・届出
などで必ず確認されるため、
正しい手続と記録の整備が欠かせません。
今回は、社会福祉法・一般法人法・指導監査ガイドラインに基づき、監事の選任手続きを整理し、実務で必要な書類をわかりやすくまとめます。
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
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1.監事の選任手続きの全体像
監事を適正に選任したことを記録・保存するために必要な書類は次のとおりです。
| No | 書類 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 理事会議事録 | 評議員会の日時・場所・議題・議案を決定 |
| ② | 監事の過半数の同意書類 | 在任監事の過半数が候補者に同意した証拠 |
| ③ | 評議員会招集通知 | 開催日の1週間前までに発出(定款短縮可) |
| ④ | 評議員会議事録 | 監事選任の決議(資格要件の説明を含む) |
| ⑤ | 就任承諾書(必要に応じて委嘱状) | 監事が就任を承諾した証拠書類 |
これらが揃っていれば、「適正な選任手続きが行われた」と説明できる状態になります。
2.監事を選任する機関:評議員会
監事の選任は、評議員会の決議によって行うことが法律で定められています。
(社会福祉法 第43条)
・役員(理事・監事)は評議員会の決議により選任する。
・補欠役員の選任も評議員会で行う。
監事は、理事会では選任できません。必ず 評議員会の権限 で決定します。
3.理事会で決議する内容(評議員会の開催決定)
評議員会を開催するためには、事前に 理事会で次の事項を決議する必要 があります。
| No | 内容 |
|---|---|
| ① | 評議員会の日時と場所 |
| ② | 評議員会の目的事項(監事の選任) |
| ③ | 議案の概要(監事候補者名や選任理由など) |
これは、社会福祉法が準用する 一般法人法 第181条 に基づくルールです。
✔ 評議員会の日時・場所・議題は、必ず理事会で決めておく必要があります。
4.監事の過半数の同意が必要(監事選任ならではの重要要件)
監事を選任する際の最大の特徴がこれです。
監事候補者を評議員会に諮る前に、在任中の監事の過半数の同意を得る必要がある。
根拠は、一般法人法 第72条(社会福祉法 第43条により準用)。
✔ 監事が2名の法人 → 過半数は 2名全員
✔ 監事が3名の法人 → 過半数は 2名以上監事の過半数について
過半数とは:全体の半分よりも多い数(出典「デジタル大辞泉」小学館より)
4-1.同意を得る目的
監事は理事会や業務執行を監査する立場であるため、
監事の独立性を確保するために、監事自身の同意を得る必要がある
と指導監査ガイドラインで説明されています。
4-2.同意を証明する書類
次のいずれかでよいとされています。
| No | 書類 |
|---|---|
| ① | 各監事が個別に署名した同意書 |
| ② | 監事全員の連名による同意書 |
| ③ | 理事会議事録(監事の同意記録+同意した監事の署名押印がある場合に限る) |
監事の同意は 必ず書面等で証拠を残す必要 があります。
○理事会が監事の選任に関する議案を評議員会に提出するためには、監事が理事の職務の執行(理事会の構成員として行う行為を含む。)を監査する立場にあることに鑑み、その独立性を確保するため、監事の過半数(注2)の同意を得なければならず(法第43 条第3項により準用される一般法人法第72 条第1項)、指導監査を行うに当たっては、監事の過半数の同意を得ているかについて確認する。
(注2)「監事の過半数」については、在任する監事の過半数をいう。なお、理事会が提出する議案について監事の過半数の同意を得ていたことを証する書類は、各監事ごとに作成した同意書や監事の連名による同意書の他、監事の選任に関する議案を決定した理事会の議事録(当該議案に同意した監事の氏名の記載及び当該監事の署名又は記名押印があるものに限る。)でも差し支えない。
出典:「厚生労働省 指導監査ガイドライン 5監事(2)選任及び解任」より
5.評議員会の招集通知(通知期限と記載事項)
評議員会は、原則として開催日の1週間前までに書面で通知する必要があります(一般法人法 第182条)。
通知には次の事項を記載します。
- 評議員会の日時・場所
- 監事の選任に関する議題
- 監事候補者名
- 議案の概要
通知は郵送が原則ですが、評議員の承諾があれば、メール等(電磁的方法)で行うことも可能です。
6.招集手続きの省略(全員同意)
評議員 全員の同意がある場合 は、招集手続き(通知)を省略して開催できます(一般法人法 第183条)。
ただし注意点があります。
✔ 省略できるのは「通知」であり、理事会決議は省略できない
→ 評議員会を開くには、必ず 事前に理事会で日時・議題を決定しておく必要 があります。
✔ 全員同意の証拠を保存
→ 書面やメールなど、全員の同意が確認できる記録を保管します。
なお、評議員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく評議員会を開催することができることとされており(法第45 条の9第10 項により準用される一般法人法第183 条)、この場合には招集の通知を省略できるが、評議員会の日時等に関する理事会の決議は省略できないことに留意するとともに、評議員全員の同意があったことが客観的に確認できる書類の保存が必要である。
出典:「厚生労働省 指導監査ガイドライン 3評議員・評議員会(2)評議員会の招集・運営」より
7.評議員会で選任決議を行う(議事録のポイント)
評議員会では、監事候補者の
- 資格要件
- 欠格事由
- 特殊関係者の該当有無
を説明したうえで、選任決議を行います。
議事録には次を記録します。
- 議事の経過
- 監事候補者名
- 資格要件(識見・独立性)の説明内容
- 監事の過半数の同意があること
- 採決結果(賛成多数・全会一致など)
これにより、監事が適正な手続きにより選任された ことを示すことができます。
8.就任承諾書(監事就任の最終ステップ)
選任決議の後は、監事本人から 就任承諾書 を受領します。
監事と法人の関係は「委任」であるため、民法 第643条により、承諾したときに監事となる ためです。
- 委嘱状は必須ではない
- ただし、委嘱状(控)+就任承諾書のセットで保管するとより丁寧
- 指導監査では、就任承諾書の保存が必須とされている
○ 法人と監事との関係は、評議員や理事と同様に、委任に関する規定に従う(法第38 条)。
そのため、評議員会により選任された者が就任を承諾することで、その時点(承諾のときに監事の任期が開始していない場合は任期の開始時)から監事となることから、この就任の承諾の有無についての指導監査を行うに当たっては、監事の役割の重要性に鑑み、文書による確認(就任承諾書の徴収等)によって行う必要があり、当該文書は法人において保存される必要がある。
なお、監事の選任の手続において、選任された者に対する委嘱状による委嘱を行うことが必要とされるものではないが、法人において、選任された者に委嘱状により監事に選任された旨を伝達するとともに、就任の意思の確認を行うことは差し支えない。
出典:「厚生労働省 指導監査ガイドライン 5監事(2)選任及び解任」より
9.保存すべき書類(チェックリスト)
- 理事会議事録(評議員会の議題・議案を決定したもの)
- 在任監事過半数の同意書(または記録)
- 評議員会招集通知(または全員同意の記録)
- 評議員会議事録(監事選任の決議)
- 監事の就任承諾書(必要に応じて委嘱状)
参考条文
監事の選任(評議員会決議)
(役員等の選任)
出典:社会福祉法より
第四十三条 役員及び会計監査人は、評議員会の決議によつて選任する。
2 前項の決議をする場合には、厚生労働省令で定めるところにより、この法律又は定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。
3 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第七十二条、第七十三条第一項及び第七十四条の規定は、社会福祉法人について準用する。この場合において、同法第七十二条及び第七十三条第一項中「社員総会」とあるのは「評議員会」と、同項中「監事が」とあるのは「監事の過半数をもって」と、同法第七十四条中「社員総会」とあるのは「評議員会」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
評議員会の招集
(評議員会の運営)
社会福祉法より
第四十五条の九 定時評議員会は、毎会計年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
2 評議員会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
3 評議員会は、第五項の規定により招集する場合を除き、理事が招集する。
(評議員会の招集の決定)
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(社会福祉法第43条第3項において準用)
第百八十一条 評議員会を招集する場合には、理事会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 評議員会の日時及び場所
二 評議員会の目的である事項があるときは、当該事項
三 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
2 前項の規定にかかわらず、前条第二項の規定により評議員が評議員会を招集する場合には、当該評議員は、前項各号に掲げる事項を定めなければならない。
(評議員会の招集の通知)
第百八十二条 評議員会を招集するには、理事(第百八十条第二項の規定により評議員が評議員会を招集する場合にあっては、当該評議員。次項において同じ。)は、評議員会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、評議員に対して、書面でその通知を発しなければならない。
2 理事は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、評議員の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該理事は、同項の書面による通知を発したものとみなす。
3 前二項の通知には、前条第一項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。(招集手続の省略)
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
第百八十三条 前条の規定にかかわらず、評議員会は、評議員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。
監事の同意
(監事の選任に関する監事の同意等)
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
第七十二条 理事は、監事がある場合において、監事の選任に関する議案を社員総会に提出するには、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。
法人と監事との関係(委任関係)
(社会福祉法人と評議員等との関係)
社会福祉法より
第三十八条 社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(委任)
民法
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
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記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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