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役員と役員会・指導監査の準備

定時評議員会での事業報告の取扱い|報告事項か承認事項かは「定款」で決まる

はじめに

定時評議員会(決算評議員会)では、

  • 計算書類(貸借対照表・収支計算書等)
  • 財産目録
  • 事業報告書

などが提出されます。

このうち 事業報告書 については、
「評議員会の承認事項なのか?」
それとも
「理事による報告事項で足りるのか?」
という点が、実務でもよく質問されます。

結論から言うと、
事業報告書の扱いは “法人の定款” の規定によって異なる ため、
必ず定款の「評議員会の権限」条文を確認する必要があります。

本記事では、
法令 → 指導監査ガイドライン → 定款例 → 結論
の順に、実務で迷わないよう整理します。


本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。

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1.指導監査ガイドラインが示す結論(とても重要)

まずは最も重要なポイントから。

指導監査ガイドラインには次のように記載されています。

事業報告については、定款で承認が必要と定めた場合を除き、
承認は不要だが、理事による報告は必要となる。

つまり、

  • 定款に「承認する」と書いてあれば承認事項
  • 書いていなければ “報告事項”
    となる、という明確な考え方です。

なお、定時評議員会に提出された事業報告については、定款において承認が必要と定めた場合を除き、承認は不要だが、理事による報告が必要となる(法第 45 条の 30 第3項)。

社会福祉法人指導監査実施要綱(指導監査ガイドライン)より

2.なぜ「定款」の規定によって扱いが異なるのか

社会福祉法では、
評議員会が決議できる事項を
「法令で定めた事項」または「定款で定めた事項」に限る
と規定しています。

(社会福祉法 第45条の8 第2項)

したがって、
事業報告書を評議員会の承認事項にするかどうかは、
法人が定款で定めて初めて “決議事項” になる
という仕組みです。


3.事業報告書は “基本的には報告事項” と考える

法令上、事業報告書を評議員会が承認しなければならないという定めはありません。

したがって、

  • 定款に書いていない → 報告事項(理事長が報告)
  • 定款に書いている → 承認事項(評議員会で承認)

という扱いになります。


4.定款例によって扱いが異なる(3つのモデル定款の比較)

平成29年の制度改革時に多くの法人が定款を改正しましたが、
参考にした「定款例」により、事業報告書の扱いが異なります。

▼ 定款例の比較(要点)

モデル定款事業報告書の扱い
厚生労働省モデル定款記載なし → 報告事項
全国経営協モデル定款記載なし → 報告事項
法人社協モデル定款「事業報告の承認」と明記 → 承認事項

特に「法人社協モデル」を参考にした法人では、事業報告を承認事項とするケースが多いです。


5.実務で行うべき確認

定時評議員会の準備では、まず最初に
定款の「評議員会の権限(決議事項)」条文を確認 します。

▼ 確認ポイント

  • 「事業報告書」が権限の一覧に含まれているか
  • 計算書類・財産目録の承認と一緒に記載されているか
  • 文章として「事業報告の承認」と明記されているか

▼ 実践的な見方

  • 多くの法人では「計算書類+財産目録」が承認事項
  • 事業報告は含めていないケースが多い
  • 社協モデル定款ベースの法人は「承認事項」に入っている

6.承認事項にするメリット・注意点(参考)

▼ メリット

  • 評議員会のガバナンス強化
  • 事業内容に対する適正性のチェックが強まる

▼ 注意点

  • 議事録に「事業報告の承認」が入るため、記録手間が増える
  • 否決された場合の対応(事業修正等)が必要
  • 承認事項は決議の定足数を満たす必要があり、形式的負担が増える


7.報告事項とする場合の実務ポイント

報告事項の場合でも、
次の点が実務上非常に重要です。

  • 法令上「理事による報告が必要」
  • 報告した旨を議事録に記録する
  • 事業報告書を評議員に配布した記録を残す

報告事項だからといって軽い扱いにはできず、「報告を行った証跡」を残すことが必須 です。


8.実務チェックリスト

  • 定款の「評議員会の権限」を確認したか
  • 事業報告書が承認事項に含まれているか確認したか
  • 承認事項の場合 → 決議に必要な定足数を確認したか
  • 報告事項の場合 → 報告した旨を議事録に記載したか
  • 評議員用資料として事業報告書を配布しているか
  • 配付・報告の証跡(議事録・資料配布記録)を保存したか

参考・モデル定款の記載内容の比較

厚生労働省 モデル定款 ○全国経営協モデル定款 ○法人社協モデル定款
第三章 評議員会

(権限)
第一〇条 評議員会は、次の事項について決議する。
(1) 理事及び監事<並びに会計監査人>の選任又は解任
(2) 理事及び監事の報酬等の額
(3) 理事及び監事並びに評議員に対する報酬等の支給の基準
(4) 計算書類(貸借対照表及び収支計算書)及び財産目録の承認
(5) 定款の変更
(6) 残余財産の処分
(7) 基本財産の処分
(8) 社会福祉充実計画の承認
(9) その他評議員会で決議するものとして法令又はこの定款で定められた事項
第三章 評議員会

(権限)
第一一条 評議員会は、次の事項について決議する。
(1) 理事及び監事の選任又は解任
(2) 理事及び監事の報酬等の額
(3) 理事及び監事並びに評議員に対する報酬等の支給の基準
(4) 計算書類(貸借対照表及び収支計算書)及び財産目録の承認
(5) 定款の変更
(6) 残余財産の処分
(7) 基本財産の処分
(8) 社会福祉充実計画の承認
(9) 事業計画及び収支予算
(10) 臨機の措置(予算外の新たな義務の負担及び権利の放棄)
(11) 公益事業・収益事業に関する重要な事項

(12) 解散
第三章 評議員会

(権限)
第 12 条 評議員会は、次の事項について決議する。
(1) 理事及び監事<並びに会計監査人>の選任又は解任
(2) 理事及び監事の報酬等の額

(3) 理事及び監事並びに評議員に対する報酬等の支給の基準
(4) 予算及び事業計画の承認
(5) 計算書類(貸借対照表及び収支計算書)及び財産目録並びに事業報告の承認
(6) 予算外の新たな義務の負担又は権利の放棄
(7) 定款の変更
(8) 残余財産の処分
(9) 基本財産の処分
(10) 社会福祉充実計画の承認
(11) 公益事業・収益事業に関する重要な事項
(12) 解散
(13)その他評議員会で決議するものとして法令又はこの定款で定められた事項
※それぞれの定款例から引用しています。

参考条文

評議員会の決議事項

社会福祉法 

(評議員会の権限等)
第四十五条の八 評議員会は、全ての評議員で組織する。
2 評議員会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
3 評議員会は、第五項の規定により招集する場合を除き、理事が招集する。

出典 社会福祉法

次回はこのテーマです。

記事の執筆者のご紹介

著者情報 この記事を書いた人

松岡 洋史

Matsuoka Hiroshi

公認会計士・税理士 
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員

マツオカ会計事務所 代表  松岡 弘巳

地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

社会福祉法人会計・監査、企業主導型保育事業の専門的財務監査を専門にする公認会計士・税理士 松岡洋史の顔写真。元地方公務員(京都市・上級事務職)として行政事務経験を11年有する

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(筆者:松岡洋史 公認会計士・税理士 専門分野:社会福祉法人会計

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