はじめに
社会福祉法人では、預金だけでなく、
債券や投資信託などの「有価証券」を保有するケースも見られるようになりました。
ただし、有価証券は性質が多様でリスクの幅も大きいため、
預金とは別の慎重さが求められる科目です。
特に、
- 満期までの期間
- 元本保証の有無
- 運用方針
- 売買の目的
といった点が実務での判断に影響します。
※本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、厚生労働省の科目定義に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
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1. 厚生労働省の定義
有価証券
出典「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」
債券(国債、地方債、社債等をいい、譲渡性預金を含む)のうち貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に満期が到来するもの、又は債券、株式、証券投資信託の受益証券などのうち時価の変動により利益を得ることを目的とする有価証券をいう。
このとおり、有価証券には次の2種類が含まれます。
- ① 満期が1年以内に到来する債券
- ② 売買益や時価変動による利益獲得を目的とする有価証券(株式・投資信託等)
いずれも「預金とは異なる性質」を持つため、
実務でも取扱いに注意が必要です。
2. 実務で押さえておきたいポイント
① 満期1年以内かどうかで区分が変わる
債券は、
満期までの期間で科目区分や管理方法が変わります。
- 満期が1年以内 →「有価証券」
- 1年超 →「長期保有資産(投資有価証券や○○積立資産など)」になる場合も
「買った時点では長期 → 年度末に1年以内に入る」ケースもあるため、
毎年の確認が欠かせません。
② 株式や投資信託は“時価変動リスク”を前提に
有価証券の中で実務負担が大きくなるのが、
投資信託・株式など時価が変動する商品です。
- 評価損益の確認
- 決算での時価評価
- 資金の拘束・解約条件
こうした項目があるため、
預金や定期預金と同じ感覚では扱えません。
③ 投資の判断は「法人としての方針」が必要
厚生労働省の過去通知では、
有価証券の管理は “安全確実で換金性の高い方法を基本” と示されています。
「特に適正を期する必要があるため、安全確実で換金自由な方法によること」
(昭和56年通知より)
古い通知ですが、
運用リスクに対する慎重姿勢は現在も変わりません。
- どの程度のリスクを許容するのか
- 余裕資金をどこまで投資に回すのか
- 元本保証がない場合の判断基準
- 売買の意思決定プロセス
こうした点を整理したうえで、資金運用規程等を整備するとともに
理事会・評議員会などで売買等の承認や運用状況の報告をしておくことが重要です。
(参考)
出典 社会福祉施設における運営費の運用及び指導について
運営費の管理、運用については、それが公金を主たる財源としている関係上、特に適正を期する必要があるので、その管理、運用に当たっては銀行、郵便局等への預貯金等安全確実で、かつ、換金自由な方法により行うよう指導されたいこと。
3. 現場で見かける状況
訪問の際、投資信託の報告書が数枚まとめて机の上に置かれていて、
担当者さんが翌月の残高表と数字を照らし合わせている場面を見かけることがあります。
- 決算時の時価評価の確認
- 決算前の評価額(帳簿価額)の整理
- 保有証券の異動状況の確認
こうした作業が、預金と比べるとどうしても増えます。
そのため、
実務が混乱しないように、
「何をどの目的で保有しているのか」が明確であることが
現場の負担を軽くするポイントになります。
4. 監査でよく確認される点
- 保有目的の記録(売買目的・満期保有目的など)
- 契約書・目論見書の保管状況
- 決算時の時価評価の根拠書類
- リスク評価の把握状況
- 資金運用規程等の整備状況
- 理事会等での意思決定・報告プロセス
有価証券は預金よりも専門的な確認項目が増えるため、
事前の方針整理と資料の整備が重要になります。
5. 関連科目(内部リンク案)
まとめ
有価証券は、社会福祉法人においても保有できる資産ですが、
預金と比較すると 性質・リスク・管理方法が大きく異なります。
- 満期までの期間の確認
- 時価評価が必要な資産の扱い
- 投資方針の整理と意思決定
- 契約内容や解約条件の把握
こうした点を押さえることで、
決算時や監査時の負担が減り、
日々の会計処理も安定していきます。
まんがでポイントを押さえよう
簡単な説明です
有価証券
運用や売買により利益を得ることを目的にして行う。投資前に、損をする可能性を想定しておくことをつい忘れがち。運用方針の決定や手続きを忘れないこと。
科目の正確な内容は、厚生労働省の勘定科目説明でいつでも確認することができます。科目の要点をイメージできるようにしておきましょう。
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勘定科目の解説の一覧
よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。
マツオカ会計事務所のストーリー
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
地方公務員としての経験と公認会計士としての知識を活かして、社会福祉法人の法人運営の支援を行ってきたことにより、独特の実務経験を有する。
