企業主導型保育事業の専門的財務監査
令和3年度から、企業主導型保育事業には「専門的財務監査」が導入され、公認会計士等による外部監査に近い形態で実施されています。
今回は、その評価基準のうち 「① 経理区分」 を取り上げ、どこが見られるのか、実務で注意したいポイントを分かりやすく整理しました。
児童育成協会が公表している専門的財務監査の評価基準のポイントを経理規程の確認を含めて読み解いていきましょう。
(ページ下部から、これまでの専門的財務監査の文書指摘事項の各ページに進むことができます。)
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専門的財務監査の評価基準の内容とポイントの4コマ漫画
1 経理区分について
🌟 1.経理区分で見られるポイントの全体像
経理区分の評価基準は次のような内容で構成されています。
(ア〜カの項目が順にチェックされます。このページの下部に評価基準を掲載しています。)
● ア:経理規程が整備されているか
- 経理規程そのものが無いケースは指摘事項
- → 社会福祉法人ならほぼ整備されているが、企業主導型保育事業に関する規程について内容の見直しや別規程(発注規程など)が必要なことも
● イ:法人本部と事業所の区分経理
- 保育事業が「拠点」として規定されているか
- 保育事業が独立した拠点として区分経理されているか(既存の別事業・別拠点・サービス区分に含まれていないか)が重要
- モデル経理規程の場合、第6条(拠点区分)で規定
● ウ:会計年度が 4月1日〜3月31日 になっているか
- 社会福祉法人は原則この年度
- 株式会社等で、会計年度が上記と異なる場合には、企業主導型保育園について、上記期間での会計処理が必要です。できていない場合には監査指摘の可能性あり
● エ:経理規程の内容が適切か
- 本社規程の流用だけで、保育事業に必要な項目が抜けていないか
- 補助簿や帳簿の記載方法を独自運用している場合は規程で明記する必要あり
● オ:規程改定が適切に行われているか
- 改定時の理事会、取締役会等の承認の有無
- 新規事業開始時に改定または制定が必要な場合が多い
● カ:勘定科目別表を整備しているか
- 企業主導型保育の開始に伴い必要な科目を追加しているか
- 社会福祉法人でも漏れやすいポイント
🌱 2.実務で一番見られるポイント
「経理規程が実態に合っているか」
監査で最も重視されるのは、
👉 経理規程が存在しているか
👉 実際の運営に合った内容になっているか
の2点です。
モデル経理規程を参考にしつつ、法人の実態に合わせて調整できているかが重要です。
🏢 3.社会福祉法人の場合の注意点
社会福祉法人の場合、ここを特に見られます。
- 経理規程の有無(企業主導型保育事業に求められる内容)
- 保育事業が「拠点」として規定されているか
- 勘定科目別表が整備されているか(保育事業に関連する勘定科目)
- 規程改定の理事会承認が残っているか
指導監査と重複する指摘も多いため、早めの見直しがおすすめです。
🧾 4.株式会社・NPO法人など社会福祉法人以外の場合の注意点
企業の場合、とくに以下が重要です。
- 経理規程が業務フローに合っているか
- モデル規程の「写し」になっていないか
- 勘定科目別表が整備されているか(別表の作成漏れが多いです)
- 企業主導型保育事業の専門家、社会福祉法人会計の専門家の両方のチェックを受けたか
企業主導型保育事業は運営費助成金・積立資産、対象外経費など特殊要素が多く、一般企業の経理規程だけでは不十分なことがあります。
経理規程案の説明書では、モデル経理規程を基に、企業主導型保育事業に関する条文をどのように加えていくかを記載し、ご自身で経理規程を見直していけるように説明しています。
📘 5.企業主導型保育で必要となる追加規程
モデル経理規程は、社会福祉法人に向けた規程例であり、児童育成協会が企業主導型保育事業で求める内容を全て反映されている訳でないため、次のような「独自規程・要領」を整備することをお勧めします。
監査の視点からも、整備しておく方が安全です。このページ下部に各種規程販売のご案内を掲載しています。
🎯 まとめ
経理区分の監査は「経理規程の整備」と「実態との一致」が最重要。
- 勘定科目別表の未整備
- 保育事業の事業区分の取り扱いミス
- 改定手続きの不備
などは、専門的財務監査でも指導監査(社会福祉法人)でも指摘されやすいポイントです。
はは(参考)専門的財務監査の評価基準と社会福祉法人のポイント解説
専門的財務監査の評価基準と項目ごとの社会福祉法人のポイントを掲載しています。
| 区分 | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
|---|---|---|---|
| ア | 法人本部(保育事業以外に係る事業)と事業所(保育事業)との区分経理を行うための経理に関する規程を整備しているか確かめる。 | ・経理に関する規程がない。 | ○経理規程があるか。 ほぼ大丈夫でしょう。 |
| イ | 法人本部と事業所は別の経理区分となっているか確かめる。 | ・区分経理されていない。 | ○経理規程に、保育事業は、一つの拠点として規定されているか。 ○企業主導型保育事業の拠点を別の拠点内のサービス区分としていないか。 ○モデル経理規程なら(事業区分、拠点区分及びサービス区分)第6条の拠点のところに規定する |
| ウ | 保育事業に係る会計年度は、4月1日から翌3月31日までとなっているか確かめる。 | ・4月1日から翌3月31日になっていない。 | ○原則として、社会福祉法人の会計期間は4月1日~3月31日になっています。 |
| エ | 経理に関する規定には、適正な会計処理や決算等を行うために必要な事項が定められているか確かめる。 | ・本社の経理規程をそのまま使い、保育事業経理に必要な事項が全く検討されていない。 ・必要な事項に不備がある。 | ○モデル経理規程(厚生労働省などか)に準拠して経理規程を作っているか。 ○補助簿などを保育事業として独自の帳簿を用いている場合には、規定しておきましょう。 |
| オ | 経理に関する規程を変更する場合には、法人所定の内部規程等に従って、適正に改訂を行っているか確かめる。 | ・適正に改定を行っていない。 | ○規程を改定した際の理事会議事録を確認しましょう。 (新たに企業主導型保育事業を開始した時など) |
| カ 勘定科目については、経理に関する規程の別表等で定めているか確かめる。 | ・別表等で定められていない。 | ○経理規程の勘定科目別表を作成しているか確認しましょう。 ○新たに企業主導型保育事業を開始した場合には、保育事業に必要となる科目があるか、また、勘定科目別表に追加したか確認をしましょう。 |
企業主導型保育事業 各監査での指摘事項 令和4年度~令和6年度
下のリンクから指摘事項のページに進みます。
企業主導型保育事業に関する4コマ漫画
「まんがの部屋」コーナーでは、内容ごとに4コマ漫画で説明しています。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
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