企業主導型保育事業の専門的財務監査
企業主導型保育事業の専門的財務監査の中で、整備費(園舎建設や改修工事など) は最重要項目のひとつです。
金額が大きく、不正リスクも高いため、監査人は
- 契約
- 支払い
- 固定資産計上
- 現物実査
をすべて突合します。
今回は 整備費の監査視点と実務上の注意点 を整理します。
児童育成協会が公表している専門的財務監査の評価基準のポイントを読み解いていきましょう。
🟦 「ホームページ利用上のご注意について」
https://office-matsuoka.net/goriyouchui
専門的財務監査の評価基準の内容とポイント
4 支出(1)整備費
🌟 1.整備費に関する監査ポイント(ア〜オ)
● ア:建築請負契約書の原本が確認できるか
監査で確認される内容
- 建設工事の契約書原本が保管されているか
- 協会に提出した契約書と一致しているか
ポイント(法人側の対応)
- 整備費に関する契約書を一式まとめて保管
- 原本の保管場所を明確にしておく
- 協会提出書類と同じものであることを説明できる状態にする
● イ:サイドレター(覚書・変更契約)が存在しないか
監査の確認内容
- 契約書とは別に、新たな条件が記された文書がないか
- 工事内容の変更を行っていないか
- あった場合は協会へ届出しているか
ポイント
- 覚書、変更契約書がある場合は必ず協会へ報告
- 未報告は重大な指摘事項になりやすい
● ウ:建設費の支払い実績の確認
監査の確認内容
- 請求書に基づき、実際に支払いが行われているか
- 振込記録(通帳)が請求書と一致しているか
ポイント
- 振込金額と請求金額が一致しているか
- 手数料の扱いを含め、説明できるよう整理する
● エ:契約金額・請求書・支払額・固定資産計上額の一致
整備費の監査で最も重要な項目です。
監査の視点
- 契約と請求書にズレがないか
- 支払金額と契約内容が一致しているか
- 固定資産への計上額が正しいか
ポイント
- 工事費の金額一覧を作成しておく(契約書・請求書と紐づける)
- 複数請求書をまとめて振込む場合は内訳を記録しておく
- 固定資産計上額(建物・付属設備・備品)を正確に分類する
● オ:固定資産実査(実物確認)ができるか
監査の確認内容
- 固定資産が実際に存在するか
- 固定資産管理台帳と現物が一致しているか
ポイント
- 資産にラベルシールを貼るなど「識別」ができる状態にする
- 固定資産管理台帳との照合(チェック)を毎年実施
- 実査日・実施者を台帳に記録しておく
🌱 2.整備費の会計処理の基本(重要)
園舎建設では、以下の費用が混在します。
- 建設工事費
- 設計料
- 監理料
- 外構工事
- 電気・設備工事
- 備品購入
- 付帯工事
これらを
・固定資産(建物・構築物・付属設備・備品)
・費用(修繕費など)
に適切に分類する必要があります。
✔ 一覧表の作成が最強
契約書・請求書を基にした
工事費・固定資産計上一覧表 を作成し、
- どの工事がどの資産に該当するか
- 付属設備との区分
- 備品との境界
が分かるようにしておくと、監査で非常に有効です。
🌱 3.設計・監理料も忘れずに
工事費だけではなく、
- 設計料
- 監理料
- 確認申請費
- 地質調査費
も整備費の対象になります。
これらは建物や付属設備に含めて資産計上するか、費用にするかを判断します。
🌱 4.固定資産の実査(必須)
監査では、固定資産台帳だけでなく「現物があるか」を直接確認します。
実査の基本
- 資産ごとに実物と台帳の照合
- 番号シールの貼付
- 管理場所の整理
- 毎年1回は実施(決算時が望ましい)
- 実査記録(実施者・日付)の保存
専門的財務監査の主な文書指摘として固定資産の実査ができていない施設が多く挙げられています。
🌟 5.まとめ:整備費は “契約→支払→資産→実査” の流れが一貫しているかが鍵
整備費の監査では、次の一致が最重要です。
✔ 契約書(原本)
✔ 請求書
✔ 支払い(通帳)
✔ 固定資産計上額
✔ 固定資産管理・現物確認(実査)
この5つが1本につながっていれば、整備費の監査はほぼクリアできます。
反対に1つでも欠けると、“大きな指摘事項” になりやすい分野です。
(参考)専門的財務監査の評価基準と社会福祉法人のポイント解説
専門的財務監査の評価基準と項目ごとの社会福祉法人のポイントを掲載しています。
| 区分 | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
|---|---|---|---|
| ア | 設置事業者への立入調査時に建築請負契約書の原本を閲覧し、児童育成協会に提出したものと同一のものであることを確認する。 | ・原本確認ができない。 または不一致である。 | ○企業主導型保育事業を開始するための工事費などの契約書をまとめて綴っておきましょう。 (原本の保管状況を把握しておきましょう) |
| イ | 設置事業者に対して、上記の契約書以外にサイドレターがないか質問等を通じて確認する。 | ・サイドレターがあり、協会に報告されていない | ○契約書内で不明確であった時に、「覚書き」などを作成していないか。 ○契約の変更は行っていないか。 ○覚書、変更契約書などがある場合には、協会へ報告がされているか。 |
| ウ | 建築代金の実際の支払いを請求書および預金通帳等で確認する。 | ・実際の支払いの事実を確認できない。 | ○請求書と振込みの記録を、合わせて説明できるように管理しておきましょう。 |
| エ | 契約書、請求書、実際支払額、帳簿残高(固定資産)の一致を確認する。 | ・不一致がある、ないし不一致の合理的な理由がない。 | ○契約書及び請求書と支払金額が一致していることを確認しておきましょう。 ○複数の請求書をまとめて振込んでいる場合には、振込金額の内訳が分かるようにしておきましょう。 ○契約書、請求書などの金額と固定資産の計上額が分かるように、一覧表(※)などを作成しておきましょう。 |
| オ | 計上されている固定資産が実在しているか、現物実査を行い確かめる。 | ・計上された固定資産の現物が確認できない。 | ○固定資産資産が、どこにあるか。また、どの資産か。 ○固定資産の管理と把握を行い、ラベルシールなどを使って明瞭にしておきましょう。 ○定期的に固定資産管理台帳と現物の確認(実査)を行なっているか。 |
企業主導型保育事業 各監査での指摘事項 令和4年度~令和6年度
下のリンクから指摘事項のページに進みます。
企業主導型保育事業に関する4コマ漫画
「まんがの部屋」コーナーでは、内容ごとに4コマ漫画で説明しています。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。
ホームページの各記事や事務所サービスのご案内
よく読まれている人気の記事(カテゴリー別)
- 社会福祉法人・企業主導型保育事業の質問と回答はこちら
- 社会福祉法人の役員(理事・監事)と評議員に関する手続き・監査指摘事項への対応はこちら
- 社会福祉法人会計で用いる勘定科目を科目ごとに分かりやすく解説はこちら
- 企業主導型保育事業の専門的財務監査の評価基準の解説はこちら
- 有料動画で学ぶ福祉の会計や経営はこちら
マツオカ会計事務所作成の書籍・動画・規程
20年間の社会福祉法人・福祉事業者の支援と、11年間の地方公務員の行政事務で培ったノウハウを 書籍・動画・規程 として公開しています。
ご自身で学び、法人内で活かせるコンテンツをご用意していますので、ぜひご覧ください。
▶ マツオカ会計事務所が提供する書籍・動画・規程まとめページを見る
出版中の書籍
よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。
