1. HOME
  2. ブログ
  3. 役員と役員会・指導監査の準備
  4. 借入の手続きは適正に行われているか 社会福祉法人会計・法人運営

会計・法人運営の記事ブログ

会計・法人運営を支えるブログ

役員と役員会・指導監査の準備

借入の手続きは適正に行われているか 社会福祉法人会計・法人運営

借入についての承認手続き

法人の業務執行の決定

社会福祉法人の業務執行の意思決定(決議)は、原則として理事会で行います。

また、理事会は、業務執行の意思決定を理事長や業務執行理事に委任する(委ねる)ことがあります。

理事会の権限の移譲になり、法人によって定款細則や、専決規程などで、理事長や業務執行理事、施設長などの決裁権限を定めています。

借入の承認手続き

借入(借財)は、法人の業務執行になるため、決裁権限のある機関(または者)の承認が必要になります。

社会福祉法の第45条の13に、理事会の決定権限の中で、理事長などに委任のできないものが示されています。

社会福祉法第45条の13

4 理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 重要な役割を担う職員の選任及び解任
四 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他社会福祉法人の業務の適正を確保するために必要なものとして厚生労働省令で定める体制の整備
六 第四十五条の二十二の二において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第百十四条第一項の規定による定款の定めに基づく第四十五条の二十第一項の責任の免除

社会福祉法より

「一」~「六」に該当する事項及びその他の重要な業務執行は、理事会の承認が必要になります。

多額の借財については、「二」にあるように理事会の承認が必要になります。

理事会決議と理事長専決(借財について)

社会福祉法第45条の13からは、多額でない借財は、理事会からの委任により、理事長等の専決が可能となりますが、

借財に関する理事長等の専決について、

定款細則や専決規程などの規程で定められていない場合(理事会からの委任の手続きがなされていない場合)には、全ての借財について、理事会の承認が必要となることに注意しましょう。

本のご案内 1から学べる社会福祉法人会計

多額の借財(借入)

多額の判断基準

理事会の承認が必要となる多額の借財ですが、

いくらから多額となるかどうかなど、具体的な基準については、社会福祉法では、明確には示されていません。

会社法の規定と判例

多額の借財について、会社法では、取締役会の権限として、第362条第4項に規定されています。

会社法の規定と参考となる判例を確認しましょう。

会社法

(取締役会の権限等)
第三百六十二条 
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除

会社法より

参考になる判例

東京地裁平成 9 年 3 月 17 日判決

「商法二六〇条二項二号に規定する多額の借財に該当するか否かについては、当該借財の額、その会社の総資産及び経常利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。」

判例を、社会福祉法人の表現に置き換えてみましょう。

社会福祉法人の表現に置き換える

多額かどうかの判断は、借財の金額(借入金額)、法人の総資産や経常増減差額に占める割合や、借入の目的、法人における従来からの取扱い等の事情を総合的に勘案する必要があります。

総合的に勘案すべき事情

判例を参考に、多額となるかどうか、総合的に勘案する事情を表にします。

NO.勘案する事情
借財の金額(借入金額)
総資産に占める割合
経常増減差額に占める割合
借入の目的
従来からの取扱い
その他勘案すべき事情

総合的に判断していく中で、悩むケースも多いと思います。

以下のような対応も考えられます。

NO.対応の例

所轄庁に相談し、指示を仰ぐ
(借入を行う時に多額に該当するかどうか、定款細則や専決規程に借財についての専決の範囲を規定する時などに相談する)

定款細則や専決規程に、専決できる借財の範囲(借入金額や借入目的など)具体的に規定しておく。

借財の範囲について

「借財」の範囲についても確認をしておきましょう。

「「借財」とは、金銭消費貸借による借入れのほか、社会通念上それと同視すべき金銭債務負担行為を指す。具体的には、銀行融資等の借入れはもちろんのこと、約束手形の振出し、債務保証、保証予約、ファイナンス・リース、デリバティブ取引等が「借財」に含まれ得る」

(出典:「取締役会付議事項の実務」より)

借入の手続きで確認しておきたい書類

借入の手続きを進める際に、確認をしておきたい書類、整理しておきたい書類は以下になります。

NO.書 類 名
定款
定款細則や専決規程
理事会の議事録
決裁権限者(理事長など)の決裁文書
借入の契約関係書類(金銭消費貸借契約書など)
借入金明細書(附属明細書)

関連する記事はこちらです。

  • 法人運営・指導監査の準備の記事の一覧はこちら

社会福祉法人専門 公認会計士・税理士による書籍

Amazonのページはこちら(試し読み機能あり)

Amazonの試し読み機能をぜひご活用ください。本の内容を一部ご覧いただくことができます。

第1巻
資金収支計算書

第1巻 資金収支計算書 表紙

63ページ
1870円

NO.タイトルページ価格
第1巻資金収支計算書 (第5版)581870円
第2巻事業活動計算書(第3版)731925円
第3巻貸借対照表 (第3版)811980円
第4巻経営組織(理事・監事や理事会・評議員会について)571760円
第5巻随意契約 451650円
第6巻注記と附属明細書1091980円
第7巻社会福祉法人会計簿記の特徴
『大切なのは、1行増えること』
521870円
第8巻管理職のための
社会福祉法人会計基準の逐条解説
831980円
第9巻利益と増減差額
 ~その違いからわかること~
471815円
第10巻現金主義と発生主義、実現主義
 ~収益と費用を計上するタイミングはいつ?~
671980円
※ 第4巻 経営組織は、法人の理事・監事や評議員について解説しています

マツオカ会計事務所のストーリー

よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。

著者情報 この記事を書いた人

松岡 洋史

Matsuoka Hiroshi

公認会計士・税理士 
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関

マツオカ会計事務所 代表  松岡 弘巳

地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
地方公務員としての経験と公認会計士としての知識を活かして、社会福祉法人の法人運営の支援を行ってきたことにより、独特の実務経験を有する。



代表挨拶へ

Profile Picture

(筆者:松岡洋史 公認会計士・税理士 専門分野:社会福祉法人会計

関連記事


1から学べる社会福祉法人会計 第9巻 利益と増減差額

マツオカ会計事務所のストーリー
こちら

error: Content is protected !!