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役員と役員会・指導監査の準備

理事の選任手続き|評議員会での決議・招集通知・就任承諾書までの実務ポイント

はじめに

社会福祉法人の理事は、法人の意思決定を担う重要な役員であり、選任手続きが適切に行われているかどうかは、
指導監査でも必ず確認される項目です。

理事の選任は、

  • 評議員会の決議
  • 適切な招集通知
  • 必要な書類の整備
  • 就任承諾の確認
    といった複数の手続きを正確に進める必要があります。

本記事では、理事を選任する際の実務の流れを、社会福祉法・一般法人法・指導監査ガイドラインに沿って、
分かりやすく整理して解説します。


本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。

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1.理事の選任手続きの全体像

理事の選任に必要な書類は次のとおりです。

No記録・保管すべき書類
理事会議事録(評議員会の議題・議案を決定)
評議員会の招集通知
評議員会議事録(理事の選任決議)
就任承諾書(必要に応じて委嘱状を添付)

これらの書類は、選任手続きが適切に行われた証拠書類として保存しておく必要があります。


2.理事を選任する機関は「評議員会」

社会福祉法 第43条では、理事は評議員会の決議により選任すると定められています。

理事会が選任するのではなく、法人全体の意思決定機関である評議員会が行います。


3.理事会で行う準備(評議員会への議題・議案の決定)

評議員会を開催するには、まず 理事会で評議員会の日時・場所・議題・議案を決定します。

一般法人法 第181条の準用により、理事会で決議すべき内容は次の通りです。

No決定事項
評議員会の日時および場所
評議員会の目的となる事項(例:理事の選任)
議案の概要(理事候補者など)

理事の選任手続きでは、評議員会の議題・議案として「理事の選任」「候補者名」を明記する必要があります。


4.評議員会の招集通知

4-1.通知期限

一般法人法 第182条の準用により、開催日の1週間前(または定款で定める期間)までに通知を発出します。

4-2.通知方法

  • 書面で通知するのが原則
  • 理事が評議員の承諾を得た場合はメール等(電磁的方法)も可能
  • いずれも「発出日が確認できる形」で保存することが重要

4-3.通知に記載すべき内容

  • 日時・場所
  • 理事の選任に関する議題
  • 理事候補者名
  • 議案の概要


5.招集手続きの省略(全員同意の場合)

評議員 全員の同意がある場合は、招集手続を省略して開催が可能です
(一般法人法 第183条)。

ただし重要な注意点があります。

✔ 理事会の開催決議は省略できない

評議員会を開くためには、
事前に理事会で日時・場所・議題を決定しておく必要があります。

✔ 全員同意の証拠書類を必ず保存

  • 書面またはメールなどで、全員の同意を確認
  • 「同意書」またはそれに代わる記録を保存
  • 指導監査では必ず確認されるポイント

なお、評議員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく評議員会を開催することができることとされており(法第45 条の9第10 項により準用される一般法人法第183 条)、この場合には招集の通知を省略できるが、評議員会の日時等に関する理事会の決議は省略できないことに留意するとともに、評議員全員の同意があったことが客観的に確認できる書類の保存が必要である。

出典:「厚生労働省 指導監査ガイドライン 3評議員・評議員会(2)評議員会の招集・運営」より


6.評議員会での選任決議(理事の確定)

評議員会では、
理事候補者が資格要件・欠格事由・特殊関係者の上限などを満たしているか
を説明したうえで、選任決議を行います。

議事録には次の内容を明確に記録します。

  • 議事の経過
  • 理事候補者名
  • 資格要件の説明(①〜③を満たす者が含まれているか)
  • 欠格事由・特殊関係者の確認
  • 投票(または全会一致)の結果
  • 選任された理事の氏名


7.就任承諾書の受領(重要)

選任された理事からは、就任承諾書 を必ず受領します。

これは、
民法 第643条の「委任」の規定に基づき、
法人と理事の法律関係が成立する瞬間に関わる重要な書類です。

▼ 基本

  • 理事の就任は「承諾」した時点で成立
  • 書面で形に残すことが義務付けられている
  • 指導監査では「必ず文書で確認すること」が明記されている

▼ 委嘱状との関係

委嘱状は必須ではありませんが、
法人が理事に選任された旨を通知する目的で交付し、控えを保管しておくことで、手続きの記録を明確にすることができます。

委嘱状を交付する場合には、控え(写し)を就任承諾書とセットで保管しておくとよいでしょう。

法人と理事との関係は、評議員と同様に、委任に関する規定に従う(法第38 条)。

そのため、評議員会により選任された者が就任を承諾したことにより、その時点(承諾のときに理事の任期が開始していない場合は任期の開始時)から理事となることから、この就任の承諾の有無についての指導監査を行うに当たっては、理事の役割の重要性に鑑み、文書による確認(就任承諾書の徴収等)によって行う必要があり、当該文書は法人において保存される必要がある。

なお、理事の選任の手続において、選任された者に対する委嘱状による委嘱が必ず必要とされるものではないが、法人において、選任された者に委嘱状により理事に選任された旨を伝達するとともに、就任の意思の確認を行うことは差し支えない。

出典:「厚生労働省 指導監査ガイドライン 4理事(2)選任及び解任」より


8.保存すべき書類一覧(まとめ)

書類ポイント
理事会議事録評議員会の日時・議題・議案を決定
評議員会招集通知発出日が確認できる形式で保存
評議員会議事録理事選任を記録(資格要件の説明を含む)
就任承諾書文書での承諾が必須。委嘱状も保管。

これらはすべて、
選任手続きが適切であったことを証明する基礎資料となります。

参考条文

理事の選任手続き

(役員等の選任)
第四十三条 役員及び会計監査人は、評議員会の決議によつて選任する。
 前項の決議をする場合には、厚生労働省令で定めるところにより、この法律又は定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。
 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第七十二条、第七十三条第一項及び第七十四条の規定は、社会福祉法人について準用する。この場合において、同法第七十二条及び第七十三条第一項中「社員総会」とあるのは「評議員会」と、同項中「監事が」とあるのは「監事の過半数をもって」と、同法第七十四条中「社員総会」とあるのは「評議員会」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

理事を選任するための評議員会の招集

(評議員会の運営)
第四十五条の九 定時評議員会は、毎会計年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
2 評議員会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
3 評議員会は、第五項の規定により招集する場合を除き、理事が招集する

(評議員会の招集の通知)
第百八十二条 評議員会を招集するには、理事(第百八十条第二項の規定により評議員が評議員会を招集する場合にあっては、当該評議員。次項において同じ。)は、評議員会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、評議員に対して、書面でその通知を発しなければならない。
2 理事は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、評議員の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該理事は、同項の書面による通知を発したものとみなす。
3 前二項の通知には、前条第一項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

(招集手続の省略)
第百八十三条 前条の規定にかかわらず、評議員会は、評議員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。

出典:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律より

評議員会を招集するために理事会で決議する事項

(評議員会の招集の決定)
第百八十一条 評議員会を招集する場合には、理事会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
 一 評議員会の日時及び場所
 二 評議員会の目的である事項があるときは、当該事項
 三 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
2 前項の規定にかかわらず、前条第二項の規定により評議員が評議員会を招集する場合には、当該評議員は、前項各号に掲げる事項を定めなければならない。

社会福祉法人と理事との関係(委任関係)

(社会福祉法人と評議員等との関係)
第三十八条 社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

出典:社会福祉法より

(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

出典:民法より

記事の執筆者のご紹介

著者情報 この記事を書いた人

松岡 洋史

Matsuoka Hiroshi

公認会計士・税理士 
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員

マツオカ会計事務所 代表  松岡 弘巳

地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

社会福祉法人会計・監査、企業主導型保育事業の専門的財務監査を専門にする公認会計士・税理士 松岡洋史の顔写真。元地方公務員(京都市・上級事務職)として行政事務経験を11年有する

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(筆者:松岡洋史 公認会計士・税理士 専門分野:社会福祉法人会計

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