企業主導型保育事業の専門的財務監査
令和3年度から、企業主導型保育事業に対して専門的財務監査が行われています。
専門的財務監査は、監査法人(公認会計士等)によって行われることになります。
児童育成協会が公表している専門的財務監査の評価基準のポイントを確認していきましょう。
今回は、4 支出(5)積立資産です。
専門的財務監査の評価基準の内容とポイント
4 支出(5)積立資産
専門的財務監査の評価基準の内容の横に、ポイントとなるところを記載していきます。
NO. | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
---|---|---|---|
ア | 所定の承認手続を経て、下記の4目的のために、積立資産という独立の勘定科目、ないし預金勘定の補助科目として計上しているか確かめる。 ※積立資産 ①人件費積立資産 ②備品等購入積立資産 ③修繕積立資産 ④保育所施設・設備整備積立資産 参照「令和3年度 助成申請、運営に当たっての留意事項」(15ページ番号12「積立資産」) | ・独立の勘定科目、預金口座で管理されていない。 | ○具体的な名称をつけた勘定科目で積立資産に計上されている ○積立資産を別口座で管理している |
イ | 積立資産の目的を明確にするとともに計画書を作成する等、 その使途や使用時期についての具体的な予定を立て、それに則って積み立てているか確かめる。 | 具体的な支出計画(時期、金額、支出内容等)が定められていない。 | ○支出計画を作成する (積立資産の積立時) |
ウ | 児童育成協会に報告した収支決算書に記載されている 「積立資産支出」の金額と同額の積立資産が 区分経理された当期の帳簿上にも計上されているか確かめる。 | 収支決算書上の「積立資産支出」の金額と同額の積立資産が区分経理された当期の帳簿上に計上されていない。 | ○企業主導型保育事業拠点区分の計算書類に積立資産が計上されている ○拠点区分資金収支計算書・貸借対照表の計上金額を確認する ○拠点区分の附属明細書との整合性を確認する(積立金・積立資産明細書) |
エ | 積立資産は専用の口座で管理しているか確かめ、 積立資産と銀行口座の残高の一致を確かめる。 (下記 表1) | ・銀行口座残高と一致しない。 | ○積立資産の専用口座を設けて管理している |
表1
銀行名 | 預金種類 | 金額 |
---|---|---|
NO. | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
---|---|---|---|
オ | 3月31日現在の積立資産銀行預金残高は、4月1日以降の決算締め作業後の完了報告書(収支決算書)の積立資産勘定残高と一致しないケースもある。 この場合、完了報告書確定後に、速やかに積立資産専用口座に資金移動しているか確かめ、差異がある場合は、その調整表(差異説明表)を作成しているか確かめる。 (下記 表2) | ・速やかに積立資産専用口座に資金移動していない。 ・調整表を作成していない。 | ○積立資産の専用口座への入金時期を確認する。 ○決算日以後に専用口座に入金している場合には、調整表を作成する |
表2
(積立資産の状況)
積立資産の額 (前年度末) | 当期増加額 | 目的取崩額 | 期末残高 | |
---|---|---|---|---|
人件費 積立資産 | ||||
備品購入等 積立資産 | ||||
修繕 積立資産 | ||||
保育所施設整備 積立資産 |
表2は、附属明細書 別紙3(⑫)「積立金・積立資産明細書」(企業主導型保育事業拠点区分分)を作成することで確認ができます。
NO. | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
---|---|---|---|
カ | 積立資産を積立目的以外のために取り崩していないか確かめ、 積立資産の取崩額が所定の承認手続を経たものであることを確認する。 | ・取崩額が目的外になされており、所定の承認手続きを経ていない。 | ○積立資産の取崩しが目的外のためでないか確認する。 ○積立資産の取崩しについて承認手続きを行う |
キ | 積立資産として計上された預金額が、 法人本部や法人本部が営む他の保育施設の運営等に一時的に貸し出されたり、流用されていないか、 積立資産専用口座の入出金の内容について質問や証拠書類の閲覧を通じて確かめる。 | ・積立資産の口座残高が他の目的に流用されている。 | ○積立資産の管理状況を確認する (専用口座通帳の入出金の有無など) |
上記ア~キ ポイントの説明
企業主導型保育事業の積立資産について、ポイントが多くありますので、項目ごとに書いていきます。
項目ア 積立資産の内容
企業主導型保育事業で積立が認められている積立資産の内容は下のようになります。
NO. | 項目 | 積立の目的・使途 |
---|---|---|
Ⅰ | 人件費積立資産 | 当該保育施設の人件費(当該保育施設の業務に従事する事業実施者に直接雇用された職員や派遣職員、出向職員)の類に属する経費のための積立資産 【使途の例】 ・給与、手当、賞与、退職金 【目的外使用の例】 ・業務委託費(保育施設運営のための人件費が含まれている場合でも、人件費積立資産として取り崩すことは事はできません。) ・人材紹介料 |
Ⅱ | 備品等購入積立資産 | 当該保育施設における業務省力化機器をはじめとした施設運営上効果のある物品を購入するための積立資産 【使途の例】 ・当該保育施設で使用するデジタル複合機 ・エアコン等の空調機器の購入支出 ・園庭遊具(50万円未満) 【目的外使用の例】 ・防犯・安全対策強化加算の対象経費(重複計上となるため) ・運営支援システム導入加算の対象経費(重複計上となるため) ・消耗品費 |
修繕積立資産 | 当該保育施設の建物、付属設備、機械器具等の固定資産の経年劣化による故障、 破損した場合の現状維持のために行う修繕に要する費用のための積立資産 【使途の例】 ・当該保育施設のOA機器の修理費用 ・台風等の天災により建物に破損が生じた場合に行った、原状回復のための修繕費用 【目的外使用の例】 ・当該保育施設の拡充のための工事費 (資産価値が上昇する工事費は保育所施設・設備整備積立資産の対象となるため、修繕費積立資産として取り崩すことは事はできません。) | |
Ⅳ | 保育所施設・ 設備整備積立資産 | 当該保育施設の将来の建物や付属設備の整備、改善等のための積立資産 【使途の例(基本的には固定資産計上できるもの)】 ・当該保育施設の拡充のための建設に伴う支出や、設備整備に伴う支出 ・保護者や職員のための当該保育施設専用駐車場を新たに整備するための支出(除土地購入) ・園庭遊具(50万円以上) 【目的外使用の例】 ・建物や付属設備の原状回復のための修繕費用 (資産価値が上昇しない修繕等の費用は修繕積立資産の対象となるため、保育所施設・設備整備積立資産して取り崩すことは事はできません。) |
項目イ 積立資産の支出計画
企業主導型保育事業では、積立資産は、積立の目的を明確にした上で、支出計画を作成して、計画に基づいて積立ていく必要があります。
(2)積立は「長期的に安定した施設運営を確保する」ために行うものであるため、積立資産の目的を明確にするとともに計画書を作成する等、その使途や使用時期についての具体的な予定を立て、それに則って積み立てを行う必要があります。
出典:児童育成協会「令和4年度企業主導型保育事業(運営費等)の年度報告、完了報告及び処遇改善等加算実績報告の手引き」より
項目エ・オ 専用口座と入金時期、調整表
専用口座と入金時期
積立資産は、専用口座を設けて管理を行う必要があります。
会計上、積立支出の計上は、3月31日付で行います。
ただし、実際の専用口座への入金(積立)は決算日以後になることも認められています。
決算日以後に専用口座に入金する場合には、可及的速やかに入金を行うこととされています。
積立資産支出の計上は3月31日付で行う必要があります。ただし、積立資産専用の預金口座への実際の資金移動については事業者の決算終了後でも差し支えありませんが、可及的速やかに行ってください。
出典:児童育成協会「令和4年度企業主導型保育事業(運営費等)の年度報告、完了報告及び処遇改善等加算実績報告の手引き」より
調整表(銀行勘定調整表)の作成
専用口座への入金が決算日以後になる場合には、積立資産の帳簿残高と専用口座の残高証明書とに差額が生じることになります。
差額が生じる場合には、差額の内容を明らかにするため、調整表を作成します。
調整表の様式は任意ですが、例えば、下のような形があります。
区分 | 帳簿残高 | 1,150,000円 | 残高証明書残高 | 650,000円 |
---|---|---|---|---|
(加算) | - | 5/1資金移動 | 500,000円 | |
(減算) | - | - | ||
合計 | 調整後残高 | 1,150,000円 | 調整後残高 | 1,150,000円 |
項目カ・キ 積立資産の目的外使用と管理
積立資産の目的外使用
企業主導型保育事業の積立資産の目的外での使用は認められていません。
積立資産を目的外で取り崩した場合には、返還の対象になります。
積立資産はいかなる理由、手続きをとっても、その一部または全部を一時的流用を含め、他の目的で使用することはできません。
出典:児童育成協会「令和4年度企業主導型保育事業(運営費等)の年度報告、完了報告及び処遇改善等加算実績報告の手引き」より
目的外で取り崩した積立資産については、返還の対象となります。
積立資産の管理
積立資産は、入出金を適切に管理していく必要があります。
管理のための規程を定めて、積立時や取崩時には規程で定めた承認手続きを経ることが大切になってきます。
積立資産を取り崩した場合は何の経費に充てたのかを明確にしておく必要があります。そのために積立資産の入金・出金履歴を適切に管理する必要があります。法人内で管理方法についての規程を定め、所定の承認手続きを経て積み立てや取り崩しを行わなければなりません。
出典:児童育成協会「令和4年度企業主導型保育事業(運営費等)の年度報告、完了報告及び処遇改善等加算実績報告の手引き」より
社会福祉法人専門 公認会計士・税理士による書籍
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マツオカ会計事務所のストーリー
よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。