社会福祉法人の公益事業について 社会福祉法人会計専門 公認会計士・税理士
はじめに
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを本旨とする法人ですが、
一定の条件のもとで 「公益事業」 を行うことが認められています。
一方で、実務では、
- どこまでが公益事業に該当するのか
- 「地域における公益的な取組」とは何が違うのか
- 収益事業との区分はどう考えればよいのか
といった点で迷われることが少なくありません。
この記事では、
社会福祉法人が行う公益事業の位置づけと内容 を、
社会福祉法人会計基準や関係通知の視点から整理して解説します。
※著者情報
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
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1.社会福祉法人が行う「公益事業」の法的位置づけ
社会福祉法人が公益事業を行うことができる根拠は、
社会福祉法第26条 に規定されています。
ここでは、社会福祉法人は、
- 自らが行う社会福祉事業に支障がない限り
- 公益を目的とする事業(公益事業)
- 収益事業
を行うことができるとされています。
また、公益事業や収益事業については、
社会福祉事業とは区分して、特別の会計として経理する
ことが求められています。
2.公益事業と社会福祉事業の違い
公益事業は、
「公益を目的とする事業」である点では社会福祉事業と共通しますが、
社会福祉事業そのものには該当しない事業 です。
そのため、
- 社会福祉事業が「主たる事業」
- 公益事業は「従たる位置づけ」
となる点が重要なポイントです。
公益事業を行うことで、
本来の社会福祉事業の運営に支障が生じてはならない
という前提が置かれています。
3.「地域における公益的な取組」との違い
公益事業と混同されやすいものとして、
「地域における公益的な取組」 があります。
これは、法改正により
社会福祉法人の責務として明確化された考え方であり、
- 社会福祉事業または公益事業を行う中で
- 日常生活や社会生活上の支援を必要とする者に対し
- 無料または低額な料金で提供される福祉サービス
を指します。
ここで重要なのは、
「地域における公益的な取組」は、
独立した事業区分ではない という点です。
あくまで、
社会福祉事業や公益事業の実施にあたって、
その公益性をより積極的に発揮する取組として位置づけられています。
4.公益事業を行う際の基本的な留意点
社会福祉法人審査基準では、
公益事業について次のような点が示されています。
- 公益を目的とする事業であること
- 社会福祉事業の円滑な遂行を妨げない規模であること
- 社会福祉事業に対して従たる地位にあること
- 社会福祉と全く関係のない事業は認められないこと
- 剰余金が生じた場合は、社会福祉事業または公益事業に充てること
単に「公益性がありそう」という理由だけでは足りず、
社会福祉との関連性 が常に問われます。
5.公益事業の具体例(考え方)
審査基準や審査要領では、
公益事業として考えられる事例が示されています。
例えば、
- 相談、情報提供、関係機関との連絡調整
- 日常生活上の支援(入浴、移動、コミュニケーション等)
- 住居の確保や生活の安定を支援する取組
- 子育て支援
- 福祉人材の育成・確保に関する事業
などが挙げられます。
ただし、これらは あくまで例示 であり、
最終的には、
- 社会福祉との関連性
- 事業の目的
- 規模や位置づけ
を総合的に見て判断されます。
6.会計処理上の基本的な考え方
公益事業を行う場合、
会計上は次の点を押さえる必要があります。
- 社会福祉事業とは区分して経理する
- 公益事業会計として、収支を明確に把握する
- 剰余金は法人の社会福祉事業や公益事業に充てる
公益事業は、
利益を目的として行うものではない
という前提に立った会計処理が求められます。
まとめ|公益事業は「主ではなく従」の位置づけ
最後にポイントを整理します。
- 公益事業は社会福祉法人に認められた「従たる事業」
- 社会福祉事業に支障がないことが前提
- 地域における公益的な取組とは概念が異なる
- 社会福祉との関連性が強く求められる
- 会計上も区分経理が必要
公益事業は、
社会福祉法人の本来の使命を補完する役割
として位置づけられている事業です。
(参考)社会福祉法及び関係通知
社会福祉法
(公益事業及び収益事業)
第二十六条 社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益を目的とする事業(以下「公益事業」という。)又はその収益を社会福祉事業若しくは公益事業(第二条第四項第四号に掲げる事業その他の政令で定めるものに限る。第五十七条第二号において同じ。)の経営に充てることを目的とする事業(以下「収益事業」という。)を行うことができる。
2 公益事業又は収益事業に関する会計は、それぞれ当該社会福祉法人の行う社会福祉事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない。
社会福祉法より
(経営の原則等)
第二十四条 社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない。2 社会福祉法人は、社会福祉事業及び第二十六条第一項に規定する公益事業を行うに当たつては、日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービスを積極的に提供するよう努めなければならない。
社会福祉法より
社会福祉法人審査基準及び社会福祉法人審査要領
社会福祉法人審査基準及び社会福祉法人審査要領では、公益事業の内容などが示されています。
公益事業を運営する際の留意点
社会福祉法人審査基準では、社会福祉法人が公益事業を運営する際の留意点が示されています。
| 区分 | 内 容 |
|---|---|
| 目 的 | 公益を目的とする事業 |
| 規 模 | 当該事業を行うことにより、当該法人の行う 社会福祉事業の円滑な遂行を妨げるおそれのないものであること |
| 位置づけ | 当該事業は、当該法人の行う 社会福祉事業に対し従たる地位にあることが必要であること。 |
| 種 類 | 社会通念上は公益性が認められるものであっても 社会福祉と全く関係のないものを行うことは認められないこと。 |
| 剰余金 | 公益事業において剰余金を生じたときは、 当該法人が行う社会福祉事業又は公益事業に充てること。 |
社会福祉法人審査基準の公益事業の例
社会福祉法人審査基準の公益事業の例示になります。
| 区分 | 公益事業の例示 |
|---|---|
| ア | 必要な者に対し、相談、情報提供・助言、行政や福祉・保健・医療サービス事業者等との連絡調整を行う等の事業 |
| イ | 必要な者に対し、入浴、排せつ、食事、外出時の移動、コミュニケーション、スポーツ・文化的活動、就労、住環境の調整等(以下「入浴等」という。)を支援する事業 |
| ウ | 入浴等の支援が必要な者、独力では住居の確保が困難な者等に対し、住居を提供又は確保する事業 |
| エ | 日常生活を営むのに支障がある状態の軽減又は悪化の防止に関する事業 |
| オ | 入所施設からの退院・退所を支援する事業 |
| カ | 子育て支援に関する事業 |
| キ | 福祉用具その他の用具又は機器及び住環境に関する情報の収集・整理・提供に関する事業 |
| ク | ボランティアの育成に関する事業 |
| ケ | 社会福祉の増進に資する人材の育成・確保に関する事業(社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・保育士・コミュニケーション支援者等の養成事業等) |
| コ | 社会福祉に関する調査研究等 |
社会福祉法人審査要領の公益事業の例
社会福祉法人審査要領では、公益事業について、より具体的に例示がされています。
| 区分 | 公益事業の例示 |
|---|---|
| (1) | 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第4項第4号に掲げる事業(いわゆる事業規模要件を満たさないために社会福祉事業に含まれない事業) |
| (2) | 介護保険法(平成9年法律第123号)に規定する居宅サービス事業、地域密着型サービス事業、介護予防サービス事業、地域密着型介護予防サービス事業、居宅介護支援事業、介護予防支援事業、介護老人保健施設を経営する事業又は地域支援事業を市町村から受託して実施する事業 なお、居宅介護支援事業等を、特別養護老人ホーム等社会福祉事業の用に供する施設の経営に付随して行う場合には、定款上、公益事業として記載しなくても差し支えないこと。 |
| (3) | 有料老人ホームを経営する事業 |
| (4) | 社会福祉協議会等において、社会福祉協議会活動等に参加する者の福利厚生を図ることを目的として、宿泊所、保養所、食堂等の経営する事業 |
| (5) | 公益的事業を行う団体に事務所、集会所等として無償又は実費に近い対価で使用させるために会館等を経営する事業 なお、営利を行う者に対して、無償又は実費に近い対価で使用させるような計画は適当でないこと。また、このような者に対し収益を得る目的で貸与する場合は、収益事業となるものであること。 |
地域における公益的な取組の要点
| No. | 要 点 | 留意点 |
|---|---|---|
| ① | 社会福祉事業又は公益事業を行うに当たって提供される「福祉サービス」であること | 社会福祉と関連のない事業は該当しない |
| ② | 「日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者」に対する福祉サービスであること | 心身の状況や家庭環境、経済的な理由により支援を要する者が対象 |
| ③ | 無料又は低額な料金で提供されること | 法人の費用負担により、料金を徴収しない又は費用を下回る料金を徴収して実施するもの |
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記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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