評議員になれない者、評議員になるのが適切でない者|欠格事由・兼任禁止・特殊関係者・行政職員の制限まで実務で押さえるべきポイント
はじめに
社会福祉法人の評議員は、
法人の最終意思決定機関(評議員会)を構成する重要な役員です。
そのため、評議員には
法令で「評議員になれない者(欠格事由)」が定められているほか、
- 法人の役員・職員との兼任禁止
- 特殊関係者の禁止
- 行政職員の制限
など、複数の選任制限があります。
これらは 評議員選任・解任委員会の中で必ず確認し、議事録として記録しておく必要のある事項 です。
本記事では、評議員になれない者について、
社会福祉法・施行規則・審査基準を基に体系的に解説します。
本記事は、社会福祉法人会計を専門とする公認会計士・税理士が、法令や厚生労働省の通知に沿って、実務で起こりやすい論点を解説しています。
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1.評議員になれない者(全体像)
評議員の選任時には、次の3つを確認する必要があります。
| No | 評議員になれない者 |
|---|---|
| ① | 欠格事由に該当する者 |
| ② | 法人の役員(理事・監事)および職員 |
| ③ | 評議員・役員と特殊関係にある者 |
これらを確認したうえで、評議員選任・解任委員会で議事録として記録することが求められます。
2.評議員の欠格事由(社会福祉法 第40条)
欠格事由は、次のいずれかに該当する者です。
| No | 欠格事由 |
|---|---|
| ① | 法人 |
| ② | 心身の故障により職務遂行に必要な認知・判断・意思疎通が適切にできない者 |
| ③ | 福祉関係法令に違反し刑に処された者(執行中・執行未了) |
| ④ | ③以外で、禁錮以上の刑の執行中・執行未了の者 |
| ⑤ | 解散命令によって解散した法人の解散当時の役員 |
| ⑥ | 暴力団員、または暴力団員でなくなって5年以内の者 |
これらに該当する場合、評議員に選任することはできません。
3.法人の役員や職員は評議員を兼ねられない(兼任禁止)
評議員は、次の者と 兼任できません。
- 理事
- 監事
- 当該法人の職員
これは、社会福祉法 第40条第2項に明確に規定されています。
理由は、
評議員が法人運営のチェック機能を担うため、
業務執行に関与する立場と兼任できないという仕組みです。
4.特殊関係者は評議員になれない(施行規則 第2条の7・第2条の8)
評議員や役員と「特殊関係」にある者は、評議員になることができません。
▼ 評議員と特殊関係にある者(施行規則 第2条の7)
- 配偶者
- 事実婚関係にある者
- 使用人
- 生計を維持されている者
- 上記の配偶者
- 上記の三親等以内の親族(生計同一の場合)
- 評議員が役員等を務める他団体の役員・職員(割合基準あり)
- 他の社会福祉法人の役員・職員(人数基準あり)
- 国・自治体・独立行政法人等の職員(人数基準あり)
▼ 役員と特殊関係にある者(施行規則 第2条の8)
内容は概ね上記と同じで、
「理事・監事」と特殊関係にある者も評議員になることはできません。
5.租税特別措置法40条の適用法人の特殊関係者(注意点)
租税特別措置法第40条の適用(受贈法人)を受ける場合、定款に追加の特殊関係者の定義を置く必要 があります。
社会福祉法と租税特別措置法施行令では、特殊関係者の範囲が異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
6.審査基準が禁止する者(法令以外の制限)
審査基準では、法令以外にも評議員として不適切とされる者が示されています。
▼ 6-1.関係行政庁の職員
一般の社会福祉法人は、
原則として関係行政庁の職員を評議員に選任すべきでない
と定められています。
理由:公私分離の原則(社会福祉法 第61条)
※社会福祉協議会のみ、評議員総数の 5分の1まで 認められています。
第3 法人の組織運営
出典 社会福祉法人 審査基準より
1 役員等
(1) 関係行政庁の職員が法人の評議員又は役員となることは法第61条に規定する公私分離の原則に照らし適当でないので、差し控えること。ただし、社会福祉協議会にあっては、評議員又は役員の総数の5分の1の範囲内で関係行政庁の職員が、その評議員又は役員となっても差し支えないこと。
▼ 6-2.名目的・慣習的な評議員の選任
- 実際に評議員会に参加できない者
- 地方公共団体の長などが慣習的に就任するケース
は、不適切とされています。
理由:評議員は法人の意思決定に参画する役割であるため、「名目だけ」の選任は認められません。
(3) 実際に法人運営に参画できない者を、評議員又は役員として名目的に選任することは適当でないこと。
(4) 地方公共団体の長等特定の公職にある者が慣例的に、理事長に就任したり、評議員又は役員として参加したりすることは適当でないこと。
出典 社会福祉法人審査基準より
▼ 6-3.反社会的勢力
暴力団員等の反社会的勢力は、評議員・役員に就任できません(審査基準)。
(6) 暴力団員等の反社会的勢力の者は、評議員又は役員となることはできないこと。
出典 社会福祉法人審査基準より
7.評議員選任・解任委員会での確認事項(実務)
評議員を選任する委員会では、次を確認し議事録に残します。
▼ 確認する内容
- 欠格事由に該当しない
- 役員・職員との兼任に該当しない
- 評議員・役員と特殊関係に該当しない
- 名目的選任に該当しない
- 行政職員の適切性(必要に応じて)
▼ 提出してもらう書類
- 履歴書(新任・再任問わず全員分)
- 誓約書(欠格事由・特殊関係の該当なしの誓約)
▼ 議事録で記録すべきこと
- 各評議員候補者が「評議員になれない者」に該当しないことを確認した旨
- 適正に選任したと委員会で判断したこと
(参考)特殊関係者と役員及び評議員の関係図
特殊関係者を役員(理事、監事)及び評議員に選任できるかどうかについて、関係図をまとめてみました。
| NO. | 役職名 | 選任の可否 |
|---|---|---|
| ① | 理事 | 可(ただし、理事総数の3分の1 かつ 3人以内) |
| ② | 監事 | 不可 |
| ③ | 評議員 | 不可 |
参考条文
評議員の資格
社会福祉法
(評議員の資格等)
第四十条 次に掲げる者は、評議員となることができない。
一 法人
二 心身の故障のため職務を適正に執行することができない者として厚生労働省令で定めるもの
三 生活保護法、児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法又はこの法律の規定に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
四 前号に該当する者を除くほか、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
五 第五十六条第八項の規定による所轄庁の解散命令により解散を命ぜられた社会福祉法人の解散当時の役員
六 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者(第百二十八条第一号ニ及び第三号において「暴力団員等」という。)2 評議員は、役員又は当該社会福祉法人の職員を兼ねることができない。
3 評議員の数は、定款で定めた理事の員数を超える数でなければならない。
4 評議員のうちには、各評議員について、その配偶者又は三親等以内の親族その他各評議員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者が含まれることになつてはならない。
5 評議員のうちには、各役員について、その配偶者又は三親等以内の親族その他各役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者が含まれることになつてはならない。
社会福祉法より
社会福祉法施行規則
(評議員のうちの各評議員と特殊の関係がある者)
第二条の七 法第四十条第四項に規定する各評議員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 当該評議員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 当該評議員の使用人
三 当該評議員から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持している者
四 前二号に掲げる者の配偶者
五 第一号から第三号までに掲げる者の三親等以内の親族であつて、これらの者と生計を一にするもの
六 当該評議員が役員(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあつては、その代表者又は管理人。以下この号及び次号において同じ。)若しくは業務を執行する社員である他の同一の団体(社会福祉法人を除く。)の役員、業務を執行する社員又は職員(当該評議員及び当該他の同一の団体の役員、業務を執行する社員又は職員である当該社会福祉法人の評議員の合計数の当該社会福祉法人の評議員の総数のうちに占める割合が、三分の一を超える場合に限る。)
七 他の社会福祉法人の役員又は職員(当該他の社会福祉法人の評議員となつている当該社会福祉法人の評 議員及び役員の合計数が、当該他の社会福祉法人の評議員の総数の半数を超える場合に限る。)
八 次に掲げる団体の職員のうち国会議員又は地方公共団体の議会の議員でない者(当該団体の職員(国会議員又は地方公共団体の議会の議員である者を除く。)である当該社会福祉法人の評議員の総数の当該社会福祉法人の評議員の総数のうちに占める割合が、三分の一を超える場合に限る。)
イ 国の機関
ロ 地方公共団体
ハ 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人
ニ 国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人又は同条第三項に規定する大学共同利用機関法人
ホ 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人
ヘ 特殊法人(特別の法律により特別の設立行為をもつて設立された法人であつて、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第九号の規定の適用を受けるものをいう。)又は認可法人(特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人をいう。)
社会福祉法施行規則より
(評議員のうちの各役員と特殊の関係がある者)
社会福祉法施行規則より
第二条の八 法第四十条第五項に規定する各役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 当該役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 当該役員の使用人
三 当該役員から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持している者
四 前二号に掲げる者の配偶者
五 第一号から第三号までに掲げる者の三親等以内の親族であつて、これらの者と生計を一にするもの
六 当該役員が役員(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあつては、その代表者又は管理
人。以下この号及び次号において同じ。)若しくは業務を執行する社員である他の同一の団体(社会福祉法
人を除く。)の役員、業務を執行する社員又は職員(当該他の同一の団体の役員、業務を執行する社員又は
職員である当該社会福祉法人の評議員の総数の当該社会福祉法人の評議員の総数のうちに占める割合が、三
分の一を超える場合に限る。)
七 他の社会福祉法人の役員又は職員(当該他の社会福祉法人の評議員となつている当該社会福祉法人の評議
員及び役員の合計数が、当該他の社会福祉法人の評議員の総数の半数を超える場合に限る。)
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次回はこのテーマです。
- 評議員の選任手続きの確認③ 「評議員の資格要件の確認手続き」
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記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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