専門的財務監査のポイント⑤ 「2(4)契約」について ~企業主導型保育事業~
企業主導型保育事業の専門的財務監査
令和3年度から、企業主導型保育事業に対して専門的財務監査が行われます。
専門的財務監査は、監査法人(公認会計士等)によって行われることになります。
児童育成協会が公表している専門的財務監査の評価基準のポイントを確認していきましょう。
今回は、2 会計一般(4)契約 について

専門的財務監査の評価基準の内容とポイント
2 会計一般(4)契約 について

専門的財務監査の評価基準の内容の横に、ポイントとなるところを記載していきます。
区分 | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
---|---|---|---|
ア | 原則として保育施設の拠点区分ごとに契約を締結しているか確かめる。 また、複数の拠点区分に係る物品の一括購入、サービス契約等を行う場合に、内容に応じ、拠点区分ごとに適正な価額を按分のうえ費用計上しているかを確かめる。 | ・重要な取引について契約書を作成していない。 ・契約書はあるが、内容に不備がある。 | ○企業主導型保育事業に関係する契約書綴りを用意しましょう。 ○法人全体の契約で、保育事業にも関係する契約は、保育事業用にコピーを取って綴りに保管しておきましょう。 |
イ | 契約に関する規程に基づき、適正に契約手続き及び契約書の作成を行っているか確かめる。 | ・契約に関する規程がない。 ・契約を行う権限を有する者をもって適正に契約がなされていない。 | ○経理規程の契約の条文を確認しましょう。 |
ウ | 経理規程で一定の金額以上の契約を行う場合は、原則、2社以上の業者からの見積もり入手や競争入札を行うことを規程しているかを確認し、実際の契約状況を検証する。 | ・相見積もりを行っていない、または随意契約の場合の理由書が作成されていない。 | ○経理規程の契約の規定にしたがって契約の手続きを行っていることを示す書類が保管されているか。 |
経理規程(契約の部)の見直し
モデル経理規程を基に、経理規程を作成している場合、契約の部を実情に合わせるように見直しをお勧めしています。詳しくはページ下に掲載しています。
アの解説 保育事業の契約書
企業主導型保育事業として単独で契約が行われているのか、
他の事業と一括で契約(法人契約など)の場合には、保育事業拠点分の金額が適正に按分(配分)されているか確認していきます。
企業主導型保育事業で単独で契約している場合
まず、保育事業拠点区分に費用(や収益)を計上している契約について、契約書を綴りにして、まとめて確認できるようにしておきましょう。
契約の一覧表があると説明もしやすくなりお勧めです。
他事業と一括で契約している場合(法人でまとめて契約)
法人として契約している場合には、保育事業用としてコピーを綴じておいた上で、コピーに原本の保管場所を記載し、いつでも原本が確認できるようにしておきましょう。
(専門的財務監査時には、原則として原本を用意しておく必要があります)
契約の一覧表を作成する場合には、企業主導型事業単独の契約と、一括契約を分かるように、区分しておきましょう。
イの解説 契約書の確認 (モデル経理規程に準拠している法人向け)
経理規程が規定する契約書の内容
社会福祉法人では、経理規程に契約に関する規定があります。
規定では、契約書についても以下のように定めています。法人の経理規程を確認してみてください。
モデル経理規程(例)
(契約書の作成)
第75条 契約担当者は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、契約書を作成するものとし、その契約書には契約の目的、契約金額、履行期限及び契約保証金に関する事項のほか、次に掲げる事項を記載しなければならない。
ただし、契約の性質又は目的により該当のない事項については、この限りでない。(1)契約履行の場所
(2)契約代金の支払い又は受領の時期及び方法
(3)監査及び検査
(4)履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
(5)危険負担
(6)契約不適合責任
(7)契約に関する紛争の解決方法
(8)その他必要な事項2 前項の規定により契約書を作成する場合においては、理事長は契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければならない。
出典:経営協「モデル経理規程」より

契約書に記載されている内容と
契約書の名義(理事長名など)を確認しておきましょう。
契約書が、施設長名(園長名)などで締結されている場合には、
事務処理規則や経理規程細則などの内部規程で、
園長等による契約の権限が規定されていること(理事長から委任を受けていることや上限金額(範囲))を確認しましょう。
契約書の作成を省略できる場合
経理規程では、契約書の作成が省略できる場合についても規定しています。
モデル経理規程(例)
(契約書の作成を省略することができる場合)
出典:経営協「モデル経理規程」より
第76条 前条の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、契約書の作成を省略することができる。
(1)指名競争又は随意契約で契約金額が100万円を超えない契約をするとき
(2)せり売りに付するとき
(3) 物品を売り払う場合において、買受人が代金を即納してその物品を引き取るとき
(4)(1)及び(3)に規定する場合のほか、随意契約による場合において理事長が
契約書を作成する必要がないと認めるとき
2 第1項の規定により契約書の作成を省略する場合においても、特に軽微な契約を除き、契約の適正な履行を確保するため、請書その他これに準ずる書面を徴するものとする。

契約金額が100円以下などでは、契約書の作成を省略できます。
この場合には、注文請書などを受領しておきましょう。
ウの解説 相見積もり(見積り合わせ)(モデル経理規程に準拠している法人向け)
経理規程では、随意契約についても規定しています。
・随意契約とした理由(理由書)
・相見積もりの記録
を残しておきましょう。

経理規程の契約の部の見直しについて
経理規程の現状
モデル経理規程に準拠して経理規程を作成している場合、契約の部(第12章前後)には、下の項目について条文が定められています。
① 契約機関
出典:モデル経理規程(経営協)より
② 一般競争契約
③ 指名競争契約
④ 随意契約
⑤ 契約書の作成
⑥ 契約書の作成を省略することができる場合
⑦ 定期的な契約内容の見直し
問題点
モデル経理規程の条文をそのまま定めている場合に、契約手続きについて、以下のような点が問題になってきます。
- 契約手続きが煩雑になる
- 全ての契約について、規程通りの契約ができていないことがある
- 見積もり合わせができていない
- 事務の実情に合致していないことがある(株式会社に多い)
法人種別ごとの経理規程の見直し
法人種別によって、以下の方針で見直しを検討すると良いでしょう。
NO. | 条文の区分 | 社会福祉法人 | 株式会社その他 |
---|---|---|---|
① | 契約機関 | 現行通り | 必要に応じて修正 |
② | 一般競争契約 | 現行通り | 見直し |
③ | 指名競争契約 | 現行通り | 見直し |
④ | 随意契約 | 条項の追加 | 条項の追加 |
⑤ | 契約書の作成 | 条項の追加 | 条項の追加 |
⑥ | 契約書の作成を省略することができる場合 | 条項の追加 | 条項の追加 |
⑦ | 定期的な契約内容の見直し | 現行通り | 必要に応じて修正 |
☆特に重要☆ 随意契約「少額の契約の見積り合わせ」について
モデル経理規程によると随意契約においては見積り合わせが必要と定めています。
少額の契約や日常的に消費する物品の購入契約などで、見積り合わせを省略していることがある場合には
- 経理規程の定める形で見積り合わせを行う
- 経理規程の内容を現状に応じて見直す。条文(項目)の追加や内容の変更その他
という対応を検討していきましょう。
契約の部の見直しのご提案
社会福祉法人向け
社会福祉法人で企業主導型保育事業を運営している法人に対して、専門的財務監査に対応する経理規程の見直しコンサルティングを行っています。
社会福祉法人では、社会福祉事業への指導監査と企業主導型保育事業の専門的財務監査の両方を意識した経理規程の見直しが大切です。
📚社会福祉法人向けの経理規程の見直しサービスにのページを見る
株式会社その他向け
経理規程の見直しコンサルティング
株式会社その他で企業主導型保育事業を運営している法人に対して、専門的財務監査に対応する経理規程の見直しコンサルティングを行っています
📚株式会社その他向けの経理規程の見直しについてはこちら
経理規程案の説明書の販売
自社で経理規程を見直すので、内容だけ知りたいという事業者向けに、企業主導型保育事業向けの「経理規程案の説明書」を販売しています。
📚株式会社その他向けの「経理規程案の説明書」のページを見る
企業主導型保育事業に関する4コマ漫画
「まんがの部屋」コーナーでは、内容ごとに4コマ漫画で説明しています。
企業主導型保育事業 各監査での指摘事項 令和4年度~令和5年度
下のリンクから指摘事項のページに進みます。
まんがの部屋
事務所の記事が600記事になってきました。会計をさらに親しみやすくなるように、記事の漫画化を進めています。
ぜひご覧になってくださいね。

マツオカ会計事務所のストーリー
よかった。ありがとう。読んだ人が幸せでありますように。
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
地方公務員としての経験と公認会計士としての知識を活かして、社会福祉法人の法人運営の支援を行ってきたことにより、独特の実務経験を有する。

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