専門的財務監査のポイント⑱ 「4 支出 ⑷本社費等」について ~企業主導型保育事業~
企業主導型保育事業の専門的財務監査
■ 本社費(本部経費)は「合理的な按分 × 根拠資料 × 継続性」が命
企業主導型保育事業では、保育拠点の運営に直接発生する費用のほかに、法人本部(本社)で発生する費用を保育拠点へ按分することがあります。
これは社会福祉法人でいう 「本部経費の配分」 に相当し、監査では以下の3点が重点的に確認されます。
✔ 配分基準(按分基準)が合理的か
✔ 承認手続きが適切か
✔ 本社で実際に発生し、企業主導型保育事業に必要な経費であるかが説明できるか。
児童育成協会が公表している専門的財務監査の評価基準のポイントを確認していきましょう。
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専門的財務監査の評価基準の内容とポイント
4 支出(4)本社経費等

🌟 1.監査ポイント(ア〜エ)
● ア:本社費(本部経費)の按分基準が明確で承認されているか
監査の視点
- 本社費として保育拠点に振り替えている経費の内容は適切か
- 経費を配分する基準(人数・面積・職員数など)が明確か
- 法人内部で承認されているか
- 毎年基準が変わっていないか(恣意性がないか)
社会福祉法人、株式会社その他の法人のポイント
- 「按分基準表」を作成し、理事長決裁などの承認を受けておく
- 運用の透明性のため、根拠資料(職員数一覧、面積図面など)を保存
- 配分基準は“状況に応じた合理的理由” がない限り変更しない
● イ:本社費として拠点へ配分する費目が合理的か
監査で確認される点
- 本部経費のうち、保育事業に関連する経費だけが配分されているか
- 対象外経費(役員報酬・交際費など)が混ざっていないか
- 賃借料の按分(本部物件の保育占有部分など)が適切か
社会福祉法人、株式会社その他の法人のポイント
- 保育事業へ配分する本部経費は“対象経費のみに限定”
- 共通経費の中に対象外経費が混入していれば、完了報告で必ずマイナス調整を行う
- 賃借料や水道光熱費の配分根拠を資料化しておく
● ウ:本部で実際に発生した費用であることが証憑で説明できるか
監査の視点
- 本部経費の請求書・領収書など証憑がそろっているか
- 実際に本部で発生した費用であるか説明できるか
- 配分後の金額が決算書・完了報告書に整合しているか
対応ポイント
- 証憑書類(請求書・領収書・契約書・納品書)を本部側で整理
- 按分した金額の計算表(明細)を作成
- 按分後の仕訳・元帳への反映を明確にする
● エ:本社費が他の費目に紛れ込んでいないか(勘定科目の通査)
監査で確認される点
- 本社費が特定の勘定だけでなく、多数の科目へ分散計上されていないか
- 本部経費をどの勘定に按分しているか把握しているか
- 「本社費はありません」と回答した法人でも、全科目を通査して確認される
社会福祉法人、株式会社その他の法人のポイント
- 本部経費に該当する勘定を一覧化(福利厚生費、備品費、賃借料など)
- 共通経費が紛れ込んでいない科目を把握
- 決算整理で配分額が正しく処理されているかを確認
🌱 2.本部経費(共通経費)の配分基準とは
共通経費を事業区分・サービス区分に分ける場合は、「発生原因に最も密接に関連する量的基準」を用いて配分する必要があります。
代表的な配分基準
- 面積(㎡)
- 人数(園児数・職員数)
- 時間
- これらを組み合わせた複合基準
一度選択した配分基準は、合理的理由がない限り継続適用が必要。
🌱 3.配分比率(按分比率)の定期的な確認
配分比率は一度決めたら終わりではなく、毎年度の初めに、以下を確認する必要があります。
✔ 実際の人数・面積が変わっていないか
✔ 配分基準に変更の必要がないか
✔ 比率が実態を反映しているか
配分比率は必ず記録に残し、承認(稟議書など)もセットで保管。
🌱 4.対象外経費が配分された場合の対応(完了報告での調整)
本社費(本部経費)の中には、企業主導型保育事業では助成対象外となる経費 が含まれることがあります。
例
- 福利厚生費
- 役職員への贈答品
- 役員報酬
- 交際費
- 非資金支出(減価償却費や引当金など)
✔ 対象外経費は、完了報告の「調整金額」欄でマイナス調整を行う
例:福利厚生費の110,000円が対象外 → 調整欄で -110,000 と入力
🌟 5.まとめ:本社費(本部経費)の監査は「按分 × 証憑 × 継続性」が鍵
本社費に関する監査で重視されるのは次のとおり。
✔ 配分基準(按分基準)が合理的で、承認されている
✔ 配分比率が実態を反映し、毎年見直している
✔ 本部経費の証憑が整備されている
✔ 対象外経費が混入していない
✔ 調整金額(完了報告)が適切に行われている
✔ 勘定科目のどこで配分しているか把握している
本部経費は“見落とされやすいけれど重大指摘につながりやすい”分野。
配分基準・比率・根拠資料をそろえておくことが、監査の対応として大切です。
(参考)専門的財務監査の評価基準と社会福祉法人のポイント解説
専門的財務監査の評価基準と項目ごとの社会福祉法人のポイントを掲載しています。
| NO. | 監査事項 | 評価事項 | 社会福祉法人のポイント |
|---|---|---|---|
| ア | 収支計算書に本社費等(総務・経理のための人件費、法人の賃借物件の保育施設占有部分の賃借料相当額等)の社内振替費用が計上されているかどうかを確認し、 計上されている場合は当該振替費用の算定(按分)基準が策定され適切に承認されていることを確認する。 *直接賦課できない間接共通経費については、園児数、従業員数、面積など按分すべき経費の発生原因となる事象を適切に反映する按分基準 | ・本社費算定(按分)基準が明確に作成され承認されていない。 ・按分方法が実態を反映したものになっていない。 ・毎期、按分方法が変更され、按分額に恣意性がある。 | ○共通経費の配分基準を定めている。 ○配分基準の根拠を確認する。 ○配分基準の変更の有無を確認する。 ○使用する配分比率を定期的に確認しているか。 |
| イ | 本社費等として施設から徴収されている金額が施設運営のために必要となる合理的な費目及びその内容から算定されていることを確認する。 *本社費等の中に役員報酬、交際費その他助成金の支払い対象経費として認められていない内容が含まれていないか注意する。 | ・費目及びその内容が合理的ではない。 | ○保育事業へ按分(配賦)している本部経費の内容を確認する。 ○保育事業へ按分した本部経費に対象外経費が含まれているかどうか確認する。 |
| ウ | 本社費等の金額は、実際に本社等で発生している費用額に基づいて算定されていることを確認する。 | ・本社で実際に発生している費用であることを資料をもって十分に説明できない。 | ○本部経費の取引の証憑書類を確認する (契約書や請求書、領収書その他) |
| エ | 本社費等が他の通常の費用科目に含まれて計上されていないかどうか質問を行い、含まれているとの回答を得た場合*には、該当する項目に対して上記アイウの手続を実施する。 *本社費等がないと回答を得た場合であっても、費用科目の総勘定元帳を通査し該当取引の有無を確認する。 | ○本部経費を按分している勘定科目を把握しておく。 |
企業主導型保育事業 各監査での指摘事項 令和4年度~令和6年度
下のリンクから指摘事項のページに進みます。
企業主導型保育事業に関する4コマ漫画
「まんがの部屋」コーナーでは、内容ごとに4コマ漫画で説明しています。
記事の執筆者のご紹介
著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
Matsuoka Hiroshi
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
元地方公務員
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年の行政事務経験
社会福祉法人会計専門の公認会計士・税理士として20年の実務経験を有する。
専門分野:社会福祉法人会計・指導監査対応、企業主導型保育事業の会計支援・専門的財務監査対応、介護、障がい福祉、保育の各制度に精通。
都道府県・政令指定都市主催の研修講師多数。

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