勘定科目の解説 事業活動計算書 事業費 棚卸資産評価損 社会福祉法人会計
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厚生労働省の勘定科目の説明 棚卸資産評価損
棚卸資産評価損
出典「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」
貯蔵品、医薬品、診療・療養費等材料、給食用材料、商品・製品、仕掛品、原材料など、棚卸資産(就労支援事業及び授産事業に係るものを除く)を時価評価した時の評価損をいう。
勘定科目説明の解説
費用科目の解説について
事業活動計算書の費用科目については、中区分の分類を用いながら小区分の科目を解説していきます。
棚卸資産評価損
今回、解説する勘定科目の体系は下のようになっています。
大区分 | 中区分 | 小区分 |
事業費 | 棚卸資産評価損 | - |
大区分は、「事業費」です。
ご利用者の処遇に直接要する費用になります。
平成12年度に制定された(旧)社会福祉法人会計基準の科目説明には
大区分についても説明がありました。
事業費支出
平成12年 社会福祉法人会計基準 事業活動収支計算書勘定科目の説明より
利用者の処遇に直接要する費用をいう。
中区分は「棚卸資産評価損」です。
法人で保管している棚卸資産を決算時に時価評価した際の、取得価額と時価評価額との差額になります。
取得価額>時価評価額となった場合の
取得価額 ー 時価評価額 = 棚卸資産評価損
棚卸資産の範囲
社会福祉法人が計上する棚卸資産の科目には、下の科目があります。
①棚卸資産の勘定科目
NO. | 科目名 | 科目説明 |
① | 貯蔵品 | 消耗品等で未使用の物品をいう。業種の特性に応じ小区分を設けることができる。 |
② | 医薬品 | 医薬品の棚卸高をいう。 |
③ | 診療・療養費等材料 | 診療・療養費等材料の棚卸高をいう。 |
④ | 給食用材料 | 給食用材料の棚卸高をいう。 |
⑤ | 商品・製品 | 売買又は製造する物品の販売を目的として所有するものをいう。 |
⑥ | 仕掛品 | 製品製造又は受託加工のために現に仕掛中のものをいう。 |
⑦ | 原材料 | 製品製造又は受託加工の目的で消費される物品で、消費されていないものをいう。 |
②就労支援事業及び授産事業の棚卸資産
上記の棚卸資産に係る評価損のうち、就労支援事業及び授産事業の棚卸資産の評価損は、事業費の「棚卸資産評価損」には計上しません。
就労支援事業の場合には、就労支援事業販売原価及び就労支援事業販管費の内訳の科目や
授産事業の場合には、授産事業費用の中の「棚卸資産増減額」等に含めて計上していきます。
棚卸資産評価損の計上について
① 棚卸資産の棚卸し作業
棚卸資産の取扱いについては、受払簿などを用いて、日々の受入れ(入庫)と払出し(出庫)の管理を行い、
期首の在庫の残高や受入れ数量、払出し数量、期末の在庫残高を記録し、把握していくことが望ましいでしょう。
期首有り高 (期首帳簿価額) | 受入れ | 払出し | 期末有り高 (期末帳簿価額) |
① | ② | ③ | ①+②ー③ |
決算時点では、実施棚卸しを行い、現物の棚卸資産の数量(実地数量)を確認して、棚卸資産受払簿(等)の記録(帳簿上の数量)と突合していきます。
帳簿上の数量と実地数量に何等かの理由で差が生じた場合、両者の差額を企業の会計では「棚卸減耗損」と言います。
社会福祉法人では、「棚卸減耗損」は科目として示されていないため、「棚卸資産評価損」に含めて計上していくか、「(事業費)雑費」などの科目に計上していきます。
② 棚卸資産の取得価額と時価評価
棚卸資産評価損は、棚卸資産の取得価額 ー 時価評価額の差額として計算するため
棚卸資産評価損の発生の有無を確認するためには、棚卸資産の取得価額と時価を把握する必要があります。
取得価額の評価について
棚卸資産の取得価額は、棚卸資産の購入価額または製造原価に附随費用(引取費用など)を加算した金額になります。
同じ棚卸資産を複数回に渡って取得した場合には、購入価額(単価など)に変動があることが考えられます。
そこで、取得価額の一般的な評価方法として以下のような方法があります。
区分 | 評価方法 | 内 容 |
① | 個別法 | 取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法 個別法は、個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法である。 |
② | 先入先出法 | 最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして期末棚卸資産の価額を算定する方法 |
③ | 平均原価法 | 取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法 なお、平均原価は、総平均法又は移動平均法によって算出する。 |
④ | 売価還元法 | 値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法 売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用される。 |
⑤ | 最終仕入原価法 | 期末棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当該事業年度終了の時から最も近い時において取得をしたものの一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。 |
これらの評価方法の中では、⑥最終仕入原価法を採用している法人さんが多いのかもしれません。
また、
いったん採用した評価方法は、正当な理由がない限り継続して適用する必要があります。
(会計原則)
出典 社会福祉法人会計基準(平成二十八年厚生労働省令第七十九号)より
第二条 社会福祉法人は、次に掲げる原則に従って、会計処理を行い、計算書類及びその附属明細書(以下「計算関係書類」という。)並びに財産目録を作成しなければならない。
三 採用する会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示方法については、毎会計年度継続して適用し、みだりにこれを変更しないこと
(こちらは参考です)
棚卸資産の評価方法は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければならない。
出典 企業会計基準第 9 号 「棚卸資産の評価に関する会計基準」より
時価評価について
時価とは市場価額などに基づく価額です。決算日時点で一般的に取引されている金額ですね。
決算日現在、流通して市場価格(単価)を確認して、棚卸資産の評価を行います。
(参考)
「時価」とは、公正な評価額をいい、市場価格に基づく価額をいう。市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする。
出典 企業会計基準第 9 号 「棚卸資産の評価に関する会計基準」より
市場価格とは、市場において、需要と供給との関係によって現実に成立する価格。
出典 「デジタル大辞泉」(小学館)より
棚卸資産評価損の計算
棚卸資産評価損は、取得価額>時価となる場合に計上します。
計算方法としては、下のように計算することができます。
該当する棚卸資産の帳簿価額 ー (棚卸資産の数量×1単位あたりの時価) = 棚卸資産評価損
①計算例
①帳簿価額 115,000円 (数量100個 1個あたり取得価額@1150円)
②時価 1個あたり 1000円
計算式
帳簿価額(115,000)ー時価(100円×@1000円)=棚卸資産評価損 15,000円
(評価損計上前 貸借対照表)
資産 | 金額 | 負債 | 金額 |
医薬品 | 115,000 | (省略) | (省略) |
(評価損の計上 事業活動計算書)
事業活動計算書 | 事業費 | 棚卸資産評価損 | 15,000 |
(評価損計上後 貸借対照表)
資産 | 金額 | 負債 | 金額 |
医薬品 | 100,000 | (省略) | (省略) |
(参考)評価益の場合
棚卸資産を時価評価した場合、過去に購入した品が値上がり等によって、取得価額<時価となることもあります。
社会福祉法人の会計ではこの場合に、棚卸資産評価益を計上することは、基本的に行いません。
社会福祉法人会計基準では
原則として、
棚卸資産は、取得価額(≒購入金額)で計上し、決算日現在で取得価額>時価の場合に、棚卸資産評価損を計上して、棚卸資産を時価で評価をすることになります。
(資産の評価)
出典 社会福祉法人会計基準(平成二十八年厚生労働省令第七十九号)より
第四条 資産については、次項から第六項までの場合を除き、会計帳簿にその取得価額を付さなければならない。ただし、受贈又は交換によって取得した資産については、その取得時における公正な評価額を付すものとする。
6 棚卸資産については、会計年度の末日における時価がその時の取得原価より低いときは、時価を付さなければならない
棚卸資産評価損の計上と重要性の原則
社会福祉法人会計基準には、「重要性の原則」という考え方があります。
重要性の原則では、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理を行わずに、簡便な方法を採用することができます。
法人が保有する棚卸資産の貸借対照表上の金額(帳簿価額)や数量、また、取得価額と時価との差額などに、重要性が乏しい場合には、決算日現在の棚卸資産についても、時価評価による棚卸資産評価損を計上しない方法を採用することができると考えられます。
「棚卸資産評価損」の重要性の原則の適用について 厚生労働省の見解
棚卸資産評価損にも「重要性の原則」が適用されるどうかについて、厚生労働省の見解が平成23年のパブリックコメントの結果に記載されています。
(給食用材料についての回答になります)
ご意見 | 回答(考え方) |
給食用材料の計上について、現実的に給食用材料の棚卸は大変な手間を伴い困難ではないかと思う。また実際に多くはすぐに消費するものではないか。資産としての価値も低い。重要性に乏しく、計上しない選択もできるようにして欲しい。 | 重要性の原則は全ての取り引きに適用されますので、実態に即してご判断いただいて結構です。 |
社会福祉法人会計基準の重要性の原則の規定
社会福祉法人会計基準
(会計原則)
第二条
一~三 略四 重要性の乏しいものについては、会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示方法の適用に際して、本来の厳密な方法によらず、他の簡便な方法によることができること。
社会福祉法人会計基準
簡単な説明です
棚卸資産評価損
法人が保有する棚卸資産、医薬品や給食用材料などの決算日時点の時価が、取得価額(≒購入金額)より低い場合に、取得価額と時価との差額を評価損として計上します。
科目の正確な内容は、厚生労働省の勘定科目説明でいつでも確認することができます。科目の要点をイメージできるようにしておきましょう。
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勘定科目の解説の一覧
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著者情報 この記事を書いた人
松岡 洋史
公認会計士・税理士
社会福祉法人理事(在任中)
スマート介護士 認定経営革新等支援機関
マツオカ会計事務所 代表 松岡 弘巳
地方公務員として11年、地方公営企業の財務部門を中心に在籍した後、平成14年から社会福祉法人への会計支援業務を行う。会計支援を通じて出会った、社会福祉法人で働く皆さんの人柄に魅かれ、平成18年 社会福祉法人会計専門の会計事務所として開業した。
地方公務員としての経験と公認会計士としての知識を活かして、社会福祉法人の法人運営の支援を行ってきたことにより、独特の実務経験を有する。